令和8年度税制改正に対応した源泉所得税の改正内容が公表されました。今回の改正は、基礎控除や給与所得控除の引上げといった個人所得課税の基本に関わる見直しを含んでいますが、実務上の影響の出方に特徴があります。
特に重要なのは、制度改正の適用時期と源泉徴収事務への反映時期が一致していない点です。本稿では、今回の改正の全体像を整理したうえで、実務上の影響がいつ・どのように生じるのかを中心に解説します。
改正の全体像と押さえるべきポイント
今回公表された改正のあらましには、主に以下の内容が含まれています。
・基礎控除の引上げ
・給与所得控除の最低保障額の引上げ
・扶養親族等の所得要件の見直し
・通勤手当の非課税限度額の引上げ
・食事の現物支給に係る非課税限度額の引上げ
・防衛特別所得税の創設(令和9年1月適用)
このうち、給与計算・年末調整に直接影響するのは、基礎控除・給与所得控除・扶養要件の見直しです。一方、通勤手当や食事の非課税限度額の見直しは、日常の給与計算に影響するものの、制度理解としては比較的シンプルです。
実務的に最も注意すべきは、「いつから適用されるのか」と「いつから実務が変わるのか」が異なる点です。
なぜ11月までは何も変わらないのか
今回の改正では、基礎控除や給与所得控除の引上げは「令和8年分の所得税」から適用されます。つまり、理論上は令和8年1月から影響がある制度改正です。
しかし、源泉徴収事務においては、令和8年12月1日施行とされています。
この結果、次のような実務運用となります。
・令和8年1月〜11月:従来の源泉徴収税額表を使用
・令和8年12月以降:改正内容を反映した年末調整を実施
このような取扱いは、源泉徴収義務者の事務負担に配慮したものです。毎月の給与計算で税額表を途中変更すると、システム対応や計算の混乱が生じるため、年末調整で一括精算する仕組みが採られています。
年末調整で起きる「精算」の実務
令和8年の年末調整では、次の2つの税額が存在することになります。
①改正前の税額表に基づいて1年間源泉徴収した税額
②改正後の控除額・計算表に基づく本来の税額
この差額を年末調整で精算することになります。
つまり、令和8年の年末調整は通常よりも「還付が発生しやすい構造」になります。基礎控除や給与所得控除が引き上げられるため、最終的な税額は軽減方向に働くためです。
ここでの実務ポイントは以下のとおりです。
・新しい給与所得控除後の金額表を必ず使用する
・従来の税額表との差額精算を前提に処理する
・年末調整の説明資料や社内周知を強化する
特に、従業員側から見ると「なぜ急に還付が増えたのか」が分かりにくいため、事前説明の有無でトラブルの発生率が大きく変わります。
扶養要件の見直しがもたらす追加対応
今回の改正では、扶養親族等の所得要件も見直されています。これにより、これまで扶養に入れなかった親族が新たに対象となる可能性があります。
ただし、この点にも実務上の注意点があります。
扶養控除の適用を受けるためには、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出が必要です。
つまり、
・制度上は対象となっても
・申告書が未提出であれば控除は適用できない
という点です。
特に令和8年は、12月から改正が適用されるため、年末調整前に扶養状況の確認と書類提出の促進が重要になります。
実務的には以下の対応が求められます。
・扶養要件の変更点を従業員に周知
・対象者の洗い出し
・申告書の再提出または修正対応
この部分を見落とすと、本来適用できる控除が反映されないという事態につながります。
防衛特別所得税の位置づけ
今回の改正では、防衛特別所得税が創設され、令和9年1月から源泉徴収が開始されます。
令和8年中は直接の影響はありませんが、次年度以降の給与計算・源泉徴収事務に影響するため、準備が必要です。
実務上のポイントは以下のとおりです。
・給与計算システムの改修スケジュール確認
・税率・計算方法の理解
・年末調整との関係整理
特に、所得税との関係でどのように徴収されるのかを整理しておくことが重要です。
実務対応のチェックポイント
今回の改正に対応するための実務チェックポイントを整理すると、次のとおりです。
・令和8年中の月次給与計算は変更なし
・年末調整での一括精算を前提に準備
・新しい控除額・計算表の適用確認
・扶養控除等申告書の回収・更新
・従業員への説明資料の整備
・令和9年改正(防衛特別所得税)への事前準備
今回の特徴は、「途中で変えないが、最後にまとめて変わる」点にあります。この構造を理解しているかどうかが、実務の混乱を防ぐ分かれ目になります。
結論
令和8年度税制改正における源泉所得税の見直しは、制度としてはシンプルである一方、実務への影響の出方が特殊です。
年間を通じた源泉徴収事務は従来どおり進めながら、年末調整で改正内容を反映して精算するという構造になっています。
そのため、重要なのは日々の処理の変更ではなく、年末調整に向けた準備と周知です。特に、控除額の変更や扶養要件の見直しは従業員にも影響が及ぶため、早期の情報共有が求められます。
また、防衛特別所得税の導入も控えており、源泉徴収事務は今後さらに複雑化する可能性があります。
制度改正そのものよりも、「実務がいつ変わるのか」を正確に捉えることが、今回の改正対応の本質です。
参考
税のしるべ 2026年4月27日号
令和8年4月源泉所得税の改正のあらましの公表に関する記事