分譲マンションは長らく、「持ち家」であり「終の棲家」として位置づけられてきました。
駅に近く、管理も任せられ、戸建てよりも利便性が高いという理由から、多くの世帯が老後の住まいとして選択してきました。
しかし、築古マンション問題、相続未登記、相続放棄といった現象を見ていくと、マンションは本当に人生の最終段階まで安定した居住基盤となり得るのかという疑問が浮かびます。
本稿では、所有・管理・相続という三つの視点から、この問いを整理します。
居住の安定性という強み
マンションの最大の強みは、居住の安定性にあります。
・賃料上昇リスクがない
・立地が良い
・管理組合が共用部分を維持する
・防犯・防災面で一定の安心感がある
高齢期において、住み慣れた場所で生活を継続できることは大きな価値です。
この点で、マンションは確かに「終の棲家」になり得る可能性を持っています。
しかし、所有は共同責任である
戸建てと異なり、マンションは区分所有という共同所有形態です。
・修繕の時期
・修繕内容
・建替えの可否
・管理費水準
これらは個人の意思だけでは決まりません。
高齢になっても、管理組合の構成員として一定の責任を負い続ける必要があります。
体力的・経済的負担が重くなる局面では、所有の継続が困難になる可能性があります。
老朽化という時間軸
建物は必ず劣化します。
築40年、50年を超えるマンションでは、
・給排水管更新
・耐震補強
・外壁改修
・エレベーター更新
など、高額な工事が必要になります。
修繕積立金が不足していれば、一時金徴収や借入が検討されます。
高齢単身世帯にとって、これらの負担は重いものとなります。
終の棲家であるはずの住まいが、将来の不安要因になることもあります。
相続という視点
所有は、居住者本人の問題で終わりません。
・相続未登記
・相続放棄
・共有持分の細分化
といった問題は、住戸の将来を不安定にします。
相続人にとって価値が低いと判断されれば、所有は継承されません。
その結果、管理不能住戸が増え、マンション全体の維持が困難になります。
終の棲家としての安定性は、次世代の受け皿があることを前提にしています。
経済合理性の変化
かつては、マンションは資産価値を維持するとの期待がありました。
しかし、
・人口減少
・立地格差
・供給過剰
・築古化
といった要因により、資産価値が下落するエリアも増えています。
資産としての魅力が薄れれば、相続放棄や放置が増える可能性があります。
終の棲家という概念は、資産価値の持続と無関係ではありません。
税制は支えになり得るか
マンション長寿命化促進税制などは、修繕を後押しする仕組みです。
しかし、
・高齢単身世帯の負担能力
・相続人の引受意欲
・建替え合意の困難
といった根本問題には直接対応できません。
税制は一定の補助輪にはなりますが、終の棲家としての持続可能性を保証するものではありません。
居住と所有を分けて考える必要性
今後は、「住み続けること」と「所有し続けること」を分けて考える視点が必要かもしれません。
例えば、
・リースバック
・定期借家への転換
・高齢期の住替え
・行政による管理支援
といった選択肢です。
終の棲家とは、「所有を維持すること」ではなく、「安心して住み続けられること」であるともいえます。
結論
マンションは、条件が整えば終の棲家になり得ます。
立地が良く、管理が機能し、修繕が適切に行われていれば、高齢期の住まいとして大きな価値があります。
しかし、老朽化、所有者高齢化、相続問題が進行する中で、すべてのマンションが終の棲家になり得るとは限りません。
共同所有という制度的前提、時間の経過による建物劣化、次世代への承継可能性を踏まえると、「終の棲家」は自動的に保証されるものではありません。
築古マンション問題は、建物の寿命だけでなく、所有の持続可能性を問う問題でもあります。
これからの住宅政策は、「所有の継続」だけでなく、「安心して住み続けられる仕組み」をどう設計するかという段階に入っているといえるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年2月16日
国土交通省 住宅税制のEBPMに関する有識者会議資料
国土交通省 マンション管理適正化関連資料
区分所有法関連資料
