近年、働き方の多様化によってフリーランスへ業務を委託する企業が急速に増えています。専門知識を持つ人材を必要な期間だけ活用できることから、大企業だけでなく中小企業でも一般的な経営手法になりました。
一方で、フリーランスとの取引を巡るトラブルも増加しています。報酬の支払い遅延や契約条件の曖昧さ、不当な値下げ要求などは以前から問題視されていました。
こうした状況を受けて施行されたのが「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)」です。
今回、公正取引委員会が公表した運用状況を見ると、企業に対する指導件数は大幅に増加しました。
これは単なる統計ではなく、「これまでの取引慣行では通用しない時代になった」という重要なメッセージでもあります。
今回は、企業がフリーランスとの取引で見直すべきポイントについて考えてみたいと思います。
フリーランス法が目指しているもの
フリーランス法は、フリーランスを労働者にするための法律ではありません。
独立した事業者同士の取引であっても、立場の強い発注者が一方的に不利益を与えることを防ぐことが目的です。
つまり、
・契約内容を明確にする
・約束した報酬を期限どおり支払う
・一方的な条件変更をしない
という、ごく当たり前の商取引ルールを徹底しようという法律なのです。
企業にとっては新たな義務というより、取引の透明性を高める制度と考えるべきでしょう。
契約書よりも重要なのは取引の運用
「契約書を交わしているから問題ない」
そう考える企業は少なくありません。
しかし実際には、
契約書には記載されていない追加業務を依頼したり、納品後に仕様変更を求めたりするケースがあります。
また、メールだけで口頭同然の依頼を繰り返している企業も珍しくありません。
法律違反になるかどうか以前に、こうした運用はトラブルの原因になります。
契約書だけではなく、
・業務内容
・納期
・成果物
・報酬
・追加作業の扱い
まで文書で残すことが重要です。
報酬の支払いは企業の信用そのもの
フリーランス法で最も多かった違反類型の一つが報酬の支払いです。
企業側から見ると、
「経理処理が遅れただけ」
と思っていても、受注側にとっては生活資金に直結します。
フリーランスは給与所得者とは異なり、社会保険や福利厚生がありません。
報酬の遅延は事業継続そのものに影響する場合があります。
近年は企業のコンプライアンスが重視される時代です。
支払期限を守ることは法令遵守だけではなく、企業ブランドを守ることにもつながります。
価格交渉も「対等性」が求められる時代
企業がコスト削減を考えることは自然な経営判断です。
しかし、
「他社はもっと安い」
「今年は予算がない」
という理由だけで一方的に値下げを要求することは問題になります。
フリーランスは事業者です。
適正な価格交渉は必要ですが、相手にも経営があることを忘れてはいけません。
長期的な信頼関係を築く企業ほど、価格だけではなく品質や専門性を評価しています。
結果として、そのような企業には優秀な人材が集まりやすくなります。
中小企業こそ契約管理をDX化する価値がある
フリーランスとの取引はメールだけで管理されることが少なくありません。
しかし、
・契約書
・発注書
・見積書
・納品書
・請求書
これらが社内でバラバラに保存されていると、後から確認することが難しくなります。
クラウドによる契約管理や電子契約を活用すれば、
取引履歴を一元管理でき、トラブル防止にも役立ちます。
法令対応だけでなく、業務効率化という面でも大きなメリットがあります。
これからは「選ばれる発注者」が競争力になる
少子高齢化によって専門人材はますます不足していきます。
優秀なフリーランスほど、発注先を選ぶ時代になっています。
報酬だけでなく、
「仕事がしやすい会社」
「約束を守る会社」
「コミュニケーションが丁寧な会社」
が高く評価されるようになります。
企業がフリーランスを選ぶ時代から、フリーランスが企業を選ぶ時代へ少しずつ変化しているのです。
結論
フリーランス法の運用状況を見ると、企業に対する指導件数は大きく増加しました。
これは監視が厳しくなったというだけではなく、社会全体が公正な取引を重視する方向へ変わっていることを示しています。
これからの企業経営では、契約書を整備するだけでは十分ではありません。契約内容を明確にし、報酬を期限どおり支払い、相互に尊重し合う取引を実践することが重要になります。
コンプライアンスは企業を縛るためのものではなく、信頼を積み重ねるための仕組みです。
フリーランスとの良好な関係を築ける企業こそ、人材不足の時代に持続的な成長を実現できるのではないでしょうか。
参考
税のしるべ
「7年度のフリーランス法の指導は1542件、勧告は10件、公取委が公表」
2026年6月29日