クラウド会計の普及により、税理士との関係も大きく変わりつつあります。
これまでの「紙の資料をまとめて渡す」スタイルから、リアルタイムでデータを共有し、
オンラインで決算・申告を完結させる時代へと移行しています。
本稿では、クラウド会計を活用した税理士連携の新しい形と、
個人事業主が知っておくべき顧問契約の変化を整理します。
1.データ共有が前提の時代へ
クラウド会計ソフトでは、税理士と利用者が同じデータを同時に閲覧・編集できます。
従来のようにUSBメモリやメールでデータを送受信する必要はなく、
リアルタイムで帳簿を確認しながら修正やアドバイスが可能です。
freeeでは「税理士共有アカウント」、マネーフォワードでは「アドバイザー共有機能」が用意され、
税理士側が安全な管理権限を持って利用者のデータにアクセスできます。
この仕組みにより、申告前の資料確認や残高調整もスピーディーに行えるようになりました。
月次決算やキャッシュフロー分析など、これまで年1回だった税理士との面談が、
「経営伴走型」に進化しています。
2.オンライン申告の一般化
e-Taxやクラウド会計ソフトの電子申告機能が普及したことで、
個人事業主でも自宅やオフィスから確定申告が可能になりました。
弥生会計オンラインでは「スマート取引取込」と連動して申告書を自動作成し、
電子署名と送信までをクラウド上で完結できます。
freeeやマネーフォワードでも、マイナンバーカードを利用した電子署名が対応済みです。
税理士が遠隔で代理申告を行う場合も、クラウド上の共同作業環境により、
書類の郵送や面談が不要となり、全国どこからでも顧問契約を結べるようになりました。
3.顧問契約の新しい形
クラウド会計を活用する税理士との契約形態は、従来の「丸投げ型」から「共同運用型」へと変化しています。
利用者自身が日々の取引を自動仕訳・確認し、税理士は月次レビューと決算チェックを担当する方式が一般的です。
これにより顧問料は従来よりも合理的に設定され、必要に応じてスポット相談を追加できる柔軟な体系が増えています。
たとえば、freeeの「認定アドバイザー制度」では、
税理士がクラウド活用支援・業務設計・決算支援などをオンラインで提供するモデルが広がっています。
また、マネーフォワードや弥生でも、クラウド導入支援に特化した「デジタル顧問プラン」が登場しています。
4.個人事業主が意識すべきポイント
クラウド会計の利便性が高まる一方で、個人事業主自身にも一定の経理リテラシーが求められます。
自動仕訳の誤判定を放置せず、月次で取引内容を見直すことが大切です。
また、税理士との役割分担を明確にすることで、トラブル防止にもつながります。
「帳簿は自分、決算は税理士」「入力は自分、税務判断は税理士」といった整理をしておくと安心です。
さらに、税理士とのコミュニケーションはオンライン中心になるため、
チャット・メール・Zoomなどのツールを活用した定期報告の仕組みづくりも重要です。
特に開業初期は、月1回のオンライン面談を設定することで、仕訳ミスや税務リスクを早期に防ぐことができます。
5.事例紹介
フリーランスのライターDさんは、弥生会計オンラインと税理士のクラウド共有を導入しました。
領収書のアップロードから申告書提出までを完全オンラインで完結させ、
税理士との打ち合わせも月1回のオンラインミーティングのみ。
結果として、従来の申告準備時間が半減し、帳簿の見える化によって資金繰りも改善しました。
税理士側も、作業時間が短縮される分、経営相談や節税提案に時間を充てられるようになったといいます。
結論
クラウド会計は、個人事業主と税理士の関係を「一方的な代行」から「共同経営支援」へと進化させています。
オンライン申告とデータ共有によって、距離や時間の制約はなくなり、
どこにいても質の高い税務サポートを受けられる時代になりました。
これからの顧問契約は、「クラウドを前提にした協働型」を意識することがポイントです。
経理と税務のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、
事業の信頼性と生産性を同時に高める大きな武器となります。
出典
・弥生株式会社「税理士と共有できる弥生会計オンライン」
・freee株式会社「認定アドバイザー制度」
・マネーフォワード株式会社「アドバイザー共有機能」
・国税庁「e-Taxの利用手引き」
・中小企業庁「中小企業のDX推進ガイドライン」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
