AIの活用が企業活動の中核に入りつつある現在、監査や税務の分野にも大きな影響が及んでいます。これまでの監査は、人間の意思決定や取引記録を対象としてきました。しかし今後は、アルゴリズムそのものが判断主体として機能する場面が増えていきます。
そのとき問われるのが、「アルゴリズムは監査できるのか」という問題です。本稿では、監査・税務の観点からこの論点を整理します。
従来の監査とAIの決定的な違い
従来の監査は、以下のような構造を前提としていました。
- 取引の発生
- 記録(帳簿・証憑)
- 人間の判断
- 結果としての数値
これに対してAIは、次のような特徴を持ちます。
- 判断プロセスがブラックボックス化しやすい
- 入力データと結果の間の因果関係が不透明
- 同じ条件でも結果が変わる可能性
つまり、監査対象が「結果」から「判断プロセス」へと拡張されることになります。
アルゴリズム監査の対象は何か
アルゴリズムを監査する場合、単に結果の正しさを見るだけでは不十分です。少なくとも以下の3層を対象とする必要があります。
① データの監査
AIの判断は入力データに強く依存します。
そのため、データの適法性・正確性・偏りの有無が重要な監査対象となります。
② モデルの監査
どのようなロジックで判断が行われているかを検証する必要があります。
ただし、深層学習などでは完全な理解が困難な場合もあります。
③ 運用の監査
AIがどのように使われているか、適切な管理体制があるかを確認します。
特に、人間によるチェック機能の有無が重要です。
税務との接点はどこにあるのか
AIと税務の関係は、今後確実に重要性を増します。
例えば以下のような場面が考えられます。
- AIによる収益認識の判断
- 経費の自動分類
- 移転価格の算定補助
- 税務リスクの自動検出
これらは単なる業務効率化にとどまらず、課税所得の算定そのものに影響を与えます。
つまり、AIの判断がそのまま「税務上の前提」となる可能性があります。
税務調査はどこを見るべきか
税務調査の視点も変化が求められます。
従来は以下が中心でした。
- 取引の実在性
- 金額の正確性
- 法令適用の妥当性
しかしAI時代には、これに加えて以下が重要になります。
- 使用しているアルゴリズムの概要
- データの取得方法と範囲
- 判断ロジックの一貫性
- バイアスの有無
つまり、「結果の検証」だけでなく「判断過程の検証」が必要になります。
ブラックボックスは許容されるのか
ここで最大の論点となるのが、ブラックボックスの扱いです。
AIの高度化により、すべての判断プロセスを人間が理解することは困難になっています。しかし、それを理由に監査を放棄することはできません。
制度設計としては、以下のような対応が考えられます。
- 完全な説明ではなく「合理的な説明可能性」を求める
- 結果の妥当性から逆算して検証する
- リスクの高い領域に監査資源を集中する
これは、従来の監査における「重要性の原則」とも共通する考え方です。
監査の役割はどう変わるのか
AI時代において、監査の役割は大きく変化します。
従来は「正確性の検証」が中心でしたが、今後は以下の要素が加わります。
- 判断プロセスの妥当性評価
- ガバナンス体制の検証
- リスク管理の有効性確認
つまり、監査は「過去の確認」から「仕組みの評価」へとシフトしていきます。
アルゴリズム監査の限界と現実
一方で、アルゴリズム監査には限界もあります。
- 完全な理解は不可能な場合がある
- 技術的専門性が必要
- 継続的な監視が求められる
このため、監査人だけで完結するのではなく、エンジニアやデータサイエンティストとの連携が不可欠になります。
結論
アルゴリズムは監査できるのかという問いに対する答えは、「完全にはできないが、監査は可能であり、むしろ不可欠である」となります。
重要なのは、アルゴリズムそのものを完全に理解することではなく、その設計・データ・運用が合理的であるかを検証することです。
AIの活用が進むほど、監査や税務の役割はむしろ重要になります。
アルゴリズムを信頼するためには、その裏側を検証する仕組みが必要であり、それこそが今後の監査の核心となります。
参考
日本経済新聞(2026年4月8日 朝刊)
超知能 きしむ世界(3) アルゴリズムが差別 訴訟に発展 採用にAI 問われる責任