企業買収(M&A)に関する会計の議論では、「のれん償却」が企業利益に与える影響がしばしば問題になります。日本の会計基準では、企業買収で生じたのれんを一定期間で償却する必要があるため、大型M&Aを行った企業では利益が大きく減少することがあります。
しかし実務では、投資家やアナリストが企業を評価する際、必ずしも会計上の利益だけを見ているわけではありません。のれん償却の影響を調整した指標が用いられることも多くあります。
代表的なものが「EBITDA」や「調整後利益」と呼ばれる指標です。本稿では、のれん会計と企業価値評価の関係を整理し、これらの指標がどのように使われているのかを考えます。
のれん償却と会計上の利益
企業買収では、買収価格が被買収企業の純資産額を上回る部分が「のれん」として計上されます。
日本基準では、こののれんを一定期間で償却する必要があります。例えば1000億円ののれんを10年で償却する場合、毎年100億円の費用が計上されます。
この費用は現金の支出を伴わないものの、会計上の利益を押し下げる要因になります。そのため、大型M&Aを実施した企業では、買収後の利益が大きく低下するケースがあります。
EBITDAという指標
こうした問題に対応するため、企業価値評価では「EBITDA」という指標が広く使われています。
EBITDAとは次の要素を除いた利益を指します。
- 支払利息
- 法人税
- 減価償却費
- のれん償却などの償却費
つまり、企業が本業でどれだけのキャッシュ創出力を持っているかを示す指標です。
M&Aの世界では、企業価値をEBITDAの倍率で評価する方法が一般的に用いられています。
調整後利益という考え方
近年は「調整後利益」と呼ばれる指標を開示する企業も増えています。
これは、会計上の利益から特定の項目を調整した利益です。企業によって調整項目は異なりますが、代表的なものとして次のようなものがあります。
- のれん償却費
- 減損損失
- 事業再編費用
- 一時的な特別損益
こうした調整を行うことで、企業の通常の収益力を示そうとするものです。
なぜ調整指標が必要なのか
調整指標が使われる理由は、会計利益が必ずしも企業の実態を反映していない場合があるためです。
特にM&Aを多く行う企業では、のれん償却費が大きくなり、本来の事業収益が見えにくくなることがあります。
そのため投資家やアナリストは、のれん償却などの影響を除いた指標を参考に企業の収益力を評価することがあります。
調整指標の課題
一方で、調整指標には注意点もあります。
調整項目の選び方は企業ごとに異なるため、比較が難しい場合があります。また、経営者にとって都合のよい項目だけを除外する可能性も指摘されています。
そのため投資家は、会計上の利益と調整指標の両方を確認しながら企業の実態を分析する必要があります。
のれん会計議論との関係
のれん償却を巡る議論では、「償却方式」と「非償却方式」のどちらが適切かがしばしば論点になります。
しかし企業価値評価の実務では、すでにEBITDAなどの指標が広く使われています。そのため、のれん償却の有無が企業評価に与える影響は限定的だという見方もあります。
この点から、近年の会計制度の議論では、単に償却方式を変更するのではなく、損益計算書の表示や利益指標のあり方を見直すべきではないかという意見も出ています。
結論
のれん償却は会計上の利益に大きな影響を与えるため、M&Aを行う企業にとって重要な問題となります。しかし企業価値評価の実務では、EBITDAや調整後利益など、のれん償却の影響を調整した指標が広く利用されています。
そのため、のれん会計の議論は単なる償却方式の問題にとどまらず、企業の収益力をどのように示すかという利益指標の問題とも深く関係しています。
今後、企業価値評価の方法や会計制度の見直しが進むなかで、のれん会計の位置づけも改めて議論されていくと考えられます。
参考
国際会計基準審議会
IFRS第3号 企業結合
企業会計基準委員会
企業結合に関する会計基準
日本経済新聞
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