日本では長年、「家を持つこと」が人生の大きな目標とされてきました。
結婚し、住宅ローンを組み、マイホームを購入する。
それは単なる住居取得ではなく、「一人前の人生」の象徴として語られてきた側面があります。
実際、日本の住宅政策も長く持ち家取得を後押ししてきました。
住宅ローン減税、低金利政策、固定資産税優遇、相続税評価の仕組みなど、日本の制度設計には「持ち家促進」の思想が色濃く存在しています。
しかし、人口減少・空き家増加・超高齢社会が進む中で、近年は「持ち家社会そのものは本当に合理的だったのか」という問いも生まれています。
今回は、日本型持ち家社会が形成された背景と、そのメリット・限界について考えていきます。
なぜ日本は「持ち家社会」を目指したのか
戦後日本では、住宅不足が深刻な社会問題でした。
高度経済成長期には都市部への人口集中が進み、住宅供給が国家的課題となりました。
その中で政府は、
・住宅金融公庫
・住宅ローン支援
・ニュータウン開発
・郊外鉄道整備
などを通じて、「持ち家取得」を政策的に後押ししていきました。
背景には、単なる住宅供給だけではなく、社会安定政策としての意味もありました。
持ち家を持つ人は、
・地域に定着しやすい
・長期雇用と相性が良い
・家族形成を促しやすい
・資産形成につながる
と考えられていたからです。
つまり、日本の持ち家社会は、住宅政策であると同時に、「家族政策」「雇用政策」「社会安定政策」でもあったのです。
「家を買うこと」が人生設計の中心だった時代
高度成長期からバブル期にかけて、日本では不動産価格が長期的に上昇するという前提が共有されていました。
そのため、
・家賃を払うくらいなら買った方が得
・不動産は値上がりする
・老後資産になる
・子どもへ残せる
という考え方が広く浸透しました。
特に終身雇用と年功序列が強かった時代には、
「35年ローンを返し切る人生」
が成立しやすかったのです。
企業に長く勤めれば給与は上がり、退職金も期待できたため、長期ローンとの相性が良かったとも言えます。
つまり、日本型持ち家社会は、
・長期雇用
・人口増加
・地価上昇
・家族世帯中心社会
という戦後日本の成長モデルと一体化していたのです。
しかし前提条件は大きく変わった
現在、日本社会は大きく変化しています。
まず人口減少です。
人口が減れば住宅需要は縮小します。
さらに地方では空き家が急増しています。
総務省調査では空き家数は過去最多を更新し続けており、「住宅不足の時代」から「住宅余剰の時代」へ移行しています。
また、働き方も変わりました。
・終身雇用の弱体化
・転職社会化
・リモートワーク拡大
・単身世帯増加
によって、「一か所に定住する合理性」が以前ほど強くなくなっています。
さらに、住宅価格の問題もあります。
都市部では住宅価格が高騰し、若年層ほど購入負担が重くなっています。
一方で地方では資産価値が下落し、「家が資産にならない」ケースも増えています。
つまり、日本型持ち家社会を支えていた前提条件は、すでに大きく変わっているのです。
持ち家は本当に「資産」なのか
日本では長く、「家は資産」という考え方が一般的でした。
しかし実際には、日本の住宅は建物価値の減少が非常に早い特徴があります。
特に木造住宅では、税務上の耐用年数が短く、中古市場でも建物価値が評価されにくい傾向があります。
そのため、
・ローン残高はある
・修繕費もかかる
・売却価格は低い
という状況も珍しくありません。
さらに人口減少地域では、そもそも買い手がいないケースもあります。
つまり、持ち家は必ずしも「流動性の高い金融資産」ではないのです。
これは株式や投資信託とは大きく異なる点です。
それでも日本人は「持ち家」を求める
それでもなお、日本では持ち家志向が根強く残っています。
理由の一つは、「安心感」です。
・老後に住居を失いたくない
・高齢になると賃貸契約が難しくなる
・家賃上昇リスクを避けたい
という不安があります。
また、日本では欧米に比べて賃貸住宅の居住安定性が弱い側面もあります。
さらに、
・家を持つことが社会的信用になる
・家庭形成の象徴になる
という文化的価値観も依然として存在しています。
つまり、日本の持ち家社会は、単なる経済合理性だけではなく、「心理」「文化」「社会保障不安」と結びついているのです。
空き家問題は「持ち家社会」の副作用なのか
現在、日本では空き家問題が深刻化しています。
背景には、
・人口減少
・地方衰退
・相続放置
・解体費負担
・中古流通市場の弱さ
などがあります。
特に問題なのは、「売れない家」が増えていることです。
高度成長期には、「家は足りない」ことが問題でした。
しかし現在は、「余っているのに処分できない」という逆の問題が起きています。
つまり、持ち家社会は、人口増加社会では合理的だったとしても、人口減少社会では大きな構造変化に直面しているのです。
今後の住宅政策はどう変わるのか
今後は、
・所有から利用へ
・新築偏重から中古活用へ
・郊外拡大型からコンパクト化へ
という流れが進む可能性があります。
また、
・高齢者向け賃貸
・サービス付き高齢者住宅
・共同居住
・地域循環型住宅政策
など、「持つこと」以外の住まい方も重要になっていくでしょう。
一方で、日本では依然として住宅税制が持ち家取得を強く優遇しています。
そのため、今後は、
「住宅政策を何のために行うのか」
という根本的な議論が必要になるかもしれません。
結論
日本の持ち家社会は、高度成長期の社会構造の中では一定の合理性を持っていました。
それは、
・人口増加
・長期雇用
・地価上昇
・家族中心社会
と強く結びついた制度だったからです。
しかし現在は、
・人口減少
・空き家増加
・転職社会化
・単身世帯増加
によって、その前提条件が大きく変化しています。
それでも日本人が持ち家を求め続ける背景には、単なる経済合理性では説明できない、「安心」「老後不安」「社会文化」が存在しています。
今後の住宅政策では、
「誰もが家を所有する社会」
を目指すのか、それとも、
「安心して住み続けられる社会」
を目指すのかが、重要なテーマになっていくのではないでしょうか。
参考
・国土交通省「住宅政策の動向」
・総務省「住宅・土地統計調査」
・日本経済新聞 各種住宅関連記事
・内閣府「少子高齢化と住宅政策に関する資料」