建設業のROEは「利益率」より「資金効率」
建設業は、他の業種と比べても特殊な資金構造を持っています。
完成まで時間がかかり、材料・人件費・外注費などの支出が先行する。
それなのに、売上計上は完成基準や進行基準に左右され、
実際の入金まで資金ギャップが長いのが特徴です。
つまり建設業では、
「利益を上げる」よりも「資金を早く回す」ことがROEを押し上げるカギ。
ROEを高めるためには、単に売上を増やすのではなく、
現場と資金の“タイミング”を整えることが重要です。
建設業のROE構造を整理してみよう
| 要素 | 建設業の特徴 | 改善の着眼点 |
|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 外注費・人件費が重く、利益率は低め | 粗利管理・追加請求・工事別原価管理 |
| 総資産回転率 | 売掛・未成工事支出金が膨らみ、回転が遅い | 回収サイト短縮・前受金活用 |
| 財務レバレッジ | 借入依存は低めだが、資金繰りで波がある | 短期借入と内部留保のバランス |
つまり、「キャッシュが詰まりやすい構造」。
利益よりも資金の流れ(回収と支出のズレ)が企業の健康を左右します。
事例②:地場中堅・建築会社B社の場合
- 売上:8億円
- 経常利益:2,400万円(利益率3.0%)
- 総資産:6億円(うち未成工事支出金1.5億円)
- 自己資本:2億円
👉 ROE = 2,400万円 ÷ 2億円 = 12%
数字上は優秀に見えますが、実態を分解すると課題が見えます。
| 指標 | 数値 | コメント |
|---|---|---|
| 売上高純利益率 | 3.0% | 現場別利益のばらつき大 |
| 総資産回転率 | 8億 ÷ 6億 = 1.33回 | 未成工事資産が膨張 |
| 財務レバレッジ | 6億 ÷ 2億 = 3倍 | 借入で資金ギャップを埋めている |
この会社の課題は「未成工事支出金の膨張」。
現場で先行発注が多く、入金まで資金が寝ている状態です。
ROEは悪くないのに、資金繰り表が常にカツカツという典型パターンです。
税理士ができる建設業支援:3つの実務アプローチ
① 工事別原価管理で利益の見える化
建設業は「工事ごとの損益」が命。
ここを曖昧にしていると、粗利率が下がっても気づけないままになります。
支援のポイント
- 工事原価報告書を「実行予算」と「実績」で突き合わせ
- 現場担当者別に粗利率を比較
- 外注費・材料費の“進捗ズレ”を月次で確認
→ 利益率が低い現場を早期発見できれば、全体ROEが安定します。
② 資金回転率のモニタリング
ROEに直結するのが「総資産回転率」。
その中でも特に重要なのが「売掛金」「未成工事支出金」「前受金」です。
支援のポイント
- 未成工事支出金の増減を定点観測(増加=資金の滞留)
- 前受金の割合を上げてキャッシュを先取り
- 月次資金繰り表で“支出先行型”を見える化
💬 「資金が回る会社は、ROEも自然に上がります」
③ 借入と内部留保のバランス管理
建設業では、案件規模によって資金需要が急増することがあります。
自己資本を温存するためには、短期借入の活用ルールを明確にすることが大切です。
支援のポイント
- 工期別キャッシュフローの把握(資金の谷間を予測)
- 一時的借入を「資本のテコ」として利用
- 内部留保は、将来の保証債務・修繕リスクに備える形で管理
→ ROEを追う=無理に借金することではなく、「資本を生かす戦略」を選ぶこと。
“資金の動き”がROEを作る:経営者へのひとこと
税理士が顧問先にこう伝えると、対話がぐっと変わります👇
「利益より先に、資金がどれだけ動いているかを見ましょう」
「未成工事支出金は“隠れた在庫”です。これを減らすだけでROEが上がります」
「前受金を多く取れる契約形態に変えると、資本効率が改善します」
ROEという数字は、利益・資産・資金の3要素を統合する“経営の温度計”。
特に建設業では、利益よりも「現金がどの速度で回っているか」が企業体力を決めます。
【まとめ】建設業のROE診断ポイント
| 分析視点 | 見るべき指標 | 改善アクション |
|---|---|---|
| 利益率 | 工事別粗利率・外注費率 | 原価管理・実行予算の徹底 |
| 資産効率 | 未成工事支出金・売掛金 | 回転期間短縮・前受金活用 |
| 資本構成 | 借入・内部留保のバランス | 短期借入・保証債務リスク管理 |
次回予告:医療・介護業の「ROEと安定経営」
次回(第3回)は、医療・介護業編。
利益率は比較的安定している一方で、
設備投資・人件費・補助金依存など、資本効率が見えづらい業種です。
医療法人・社会福祉法人・介護事業所の「ROE的見方」を解説し、
税理士が“安定黒字経営”をどう支援できるかを取り上げます。
出典
出典:2025年10月11日 日本経済新聞朝刊
「株式投資、『変革』銘柄の選び方」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

