2025年のIPO市場で、ある象徴的な変化が起きています。
これまで圧倒的な存在感を持ってきた四大監査法人のシェアが、ついに過去最低となる45%まで低下しました。
一方で、中小監査法人のシェアは急伸し、4割近くに達しています。
この動きは単なるシェアの変動ではありません。
監査業界の構造変化、そして日本の資本市場の質そのものに関わる問題を含んでいます。
本稿では、この変化の背景と今後の方向性を整理します。
四大監査法人シェア低下の実態
まず押さえるべきは、数字の意味です。
2025年IPO企業において
・四大監査法人:45%(過去最低)
・中小監査法人:約37%(急増)
従来は四大が多数を占める構図でしたが、その前提が崩れ始めています。
ただし重要なのは、件数ベースではシェア低下でも、金額ベースではむしろ存在感が強まっている点です。
四大監査法人の平均IPO規模は
・四大:1社平均 約400億円
・準大手:約35億円
・中小:約19億円
つまり、四大は「量」ではなく「質(大型案件)」へシフトしているといえます。
人手不足がもたらした構造変化
この変化の最大の要因は、明確に「人手不足」です。
背景には2つの流れがあります。
①監査の厳格化による業務負荷の増加
2015年以降、会計不正問題を受けて監査の厳格化が進みました。
これにより、1社あたりの監査工数が大きく増加しています。
つまり、同じ人員でも処理できる案件数が減少しています。
②働き方改革による供給制約
監査業界でも長時間労働の是正が進み、
・残業規制
・繁忙期の負荷制限
が導入されました。
結果として、監査人材の“供給量そのもの”が制約される構造になっています。
なぜ中小監査法人に案件が流れたのか
四大が受注を絞った結果、自然と中小監査法人に案件が流れました。
しかしこれは単なる“代替”ではなく、合理的な選択でもあります。
①IPO企業の報酬水準とのミスマッチ
スタートアップ企業は
・監査報酬が低い
・リスクは高い
という特徴があります。
四大にとっては採算が合いにくく、
結果として「選別」が進みました。
②中小監査法人の成長機会
一方で中小監査法人にとってIPOは
・ブランド向上
・収益機会
の両面で重要です。
そのため、積極的に受注するインセンティブがあります。
四大監査法人の“戦略的撤退”と集中
今回の動きは、単なるシェア低下ではなく、むしろ戦略的な再配分です。
四大は明確に次の領域に集中しています。
①大型IPO(スピンオフ含む)
近年増えている
・事業再編によるスピンオフ上場
・子会社上場
は、規模が大きく複雑です。
こうした案件は
・国際基準対応
・海外投資家対応
が必要であり、四大の強みが発揮されます。
②グローバル対応案件
海外投資家向けのIPOでは
・英文開示
・海外監査ネットワーク
が不可欠です。
この領域では、四大の優位性は依然として揺らいでいません。
IPO市場の“質”への影響
ここからが本質的な論点です。
監査法人の構成変化は、IPO市場の質に直接影響します。
①監査品質のばらつきリスク
中小監査法人の増加により
・監査経験
・人材層
の差が顕在化する可能性があります。
実際に、上場前からの不正が見抜けなかった事例も出ています。
②規制強化の可能性
これを受けて、
・パートナー数の最低基準引き上げ
などの議論が進んでいます。
これは結果として
・中小監査法人の参入障壁上昇
につながる可能性があります。
今後のIPO市場はどう変わるか
今後の方向性は、次の2つの力のせめぎ合いになります。
①四大回帰の動き
・IPO監査部門の強化
・スタートアップ支援政策
により、四大のシェアは一定程度回復する可能性があります。
②市場の大型化
東京証券取引所の基準見直しにより
・小規模IPOの減少
・大型IPO志向
が強まります。
これは四大に有利に働く構造です。
結論
四大監査法人のシェア低下は、単なる市場シェアの問題ではありません。
それは
・人材制約
・監査の高度化
・IPO市場の構造変化
が同時に進んでいることを示しています。
そして本質は、次の一点に集約されます。
「誰がIPO企業の品質を担保するのか」という問題です。
四大と中小の役割分担が進むのか、
それとも再び集中が起きるのか。
IPO市場は今、転換点にあります。
参考
日本経済新聞 2026年3月20日朝刊
IPO、四大監査法人シェア低下に関する記事

