CBDCは銀行預金を奪うのか――中央銀行デジタル通貨が金融システムに与える影響

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中央銀行デジタル通貨(CBDC)の議論が世界各国で進んでいます。日本でも日本銀行が実証実験を行い、決済インフラの将来像について検討が続いています。

CBDCの議論で必ず浮上する論点の一つが、銀行預金との関係です。もし中央銀行が個人向けのデジタル通貨を発行すれば、人々は銀行預金ではなく中央銀行のお金を直接保有できるようになります。この場合、銀行預金が大きく減少するのではないかという懸念が指摘されています。

銀行預金は金融システムの基盤となる資金源です。銀行は預金を原資として企業や個人への貸出を行っています。そのため、CBDCが銀行預金を奪う可能性は、金融仲介機能そのものに関わる問題といえます。

本稿では、CBDCと銀行預金の関係を整理し、中央銀行デジタル通貨が金融システムにどのような影響を与える可能性があるのかを考察します。


銀行預金と中央銀行マネーの違い

まず、銀行預金と中央銀行マネーの違いを整理する必要があります。

銀行預金は民間銀行の負債です。預金者は銀行に対する債権を持っていることになります。銀行はその預金を原資として貸出や投資を行い、利ざやを得ることで収益を上げています。

一方、中央銀行マネーは中央銀行の負債です。紙幣や中央銀行当座預金がこれに該当します。中央銀行マネーは信用リスクを持たない決済資産として、金融システムの最終決済手段になっています。

現在、一般の個人や企業が直接保有できる中央銀行マネーは現金だけです。銀行預金は民間銀行を通じて利用するお金という位置づけになります。

CBDCは、この構造を変える可能性があります。もし中央銀行が個人向けのデジタル通貨を発行すれば、一般の人々が中央銀行マネーを直接保有できるようになります。


預金流出の懸念

CBDCが導入された場合、最も懸念されるのが銀行預金からCBDCへの資金移動です。

中央銀行マネーは信用リスクがないため、安全資産としての魅力があります。銀行預金は預金保険制度によって保護されていますが、銀行破綻の可能性が完全にゼロというわけではありません。

もし個人が中央銀行に直接口座を持てるようになれば、銀行預金よりも安全と考えられるCBDCに資金が移る可能性があります。

特に金融不安が生じた場合には、この動きが急速に広がる可能性があります。銀行預金からCBDCへ大量の資金が移動すれば、銀行の資金調達が難しくなり、貸出機能に影響が及ぶ可能性があります。

この現象は、いわば「デジタル銀行取り付け」とも呼ばれています。


金融仲介機能への影響

銀行預金が減少すれば、銀行の貸出能力にも影響が及びます。

銀行は預金を原資として貸出を行うことで金融仲介機能を担っています。この機能は経済全体にとって重要です。企業の設備投資や住宅ローンなど、多くの資金需要は銀行貸出によって支えられています。

もし預金が中央銀行に移動すれば、銀行は貸出資金を別の方法で調達する必要があります。例えば、以下のような手段が考えられます。

・市場からの資金調達
・中央銀行からの借入
・社債などの発行

しかし、これらの資金調達は預金よりもコストが高くなる可能性があります。その結果、貸出金利が上昇する可能性も指摘されています。

このように、CBDCは金融仲介構造に影響を与える可能性があると考えられています。


各国が検討する対策

こうした懸念を踏まえ、多くの中央銀行はCBDCの設計において銀行預金への影響を抑える仕組みを検討しています。

代表的な方法として次のようなものがあります。

第一に、保有上限を設ける方法です。
個人が保有できるCBDCの金額を制限することで、大規模な資金移動を防ぐことができます。

第二に、利息を付けない仕組みです。
銀行預金には利息がありますが、CBDCに利息を付けなければ預金の魅力を維持することができます。

第三に、二層構造モデルです。
中央銀行が直接口座を管理するのではなく、民間銀行が仲介機関としてCBDCを提供する仕組みです。

このような設計により、CBDCと銀行預金のバランスを維持することが可能と考えられています。


銀行の役割は変わるのか

CBDCが導入されたとしても、銀行の役割が消えるわけではありません。

銀行は単に預金を受け入れるだけの存在ではありません。信用評価や貸出審査、資金管理など、金融仲介に関する多くの機能を担っています。

また、決済サービスや金融商品提供など、銀行が担うサービスは多岐にわたります。こうした機能は中央銀行が代替するものではありません。

むしろCBDCの導入によって、銀行の役割がより明確に分化する可能性があります。決済インフラは中央銀行が提供し、金融サービスは民間銀行が担うという構造です。

この意味で、CBDCは銀行を代替するものではなく、金融システムの構造を再設計する契機になると考えられます。


結論

CBDCが銀行預金を奪うのではないかという懸念は、金融システムの構造に関わる重要な論点です。

中央銀行マネーは信用リスクのない決済資産であるため、CBDCが導入されれば銀行預金から資金が移動する可能性は否定できません。

しかし各国の中央銀行は、保有上限や二層構造などの設計によって、銀行預金への影響を抑える仕組みを検討しています。

CBDCの目的は銀行を置き換えることではなく、決済インフラの効率性と安全性を高めることです。中央銀行と民間銀行がそれぞれの役割を担う新しい金融システムの構築が、今後の課題となるでしょう。


参考

日本経済新聞
2026年3月4日 朝刊
当座預金、デジタル化へ 日銀総裁「実験を発展させたい」

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