かつて経理に求められたスキルといえば、正確な仕訳・法令知識・Excelの操作。
けれど今、その“常識”が変わろうとしています。
AIが経理の定型業務を代替する時代に必要なのは、
「AIをどう使いこなすか」という新しいスキルセットです。
AI時代の経理を伸ばすのは、資格よりも質問力と解釈力。
つまり――「プロンプト力」と「分析力」が、次世代経理の武器になるのです。
第1章 経理のスキル構造が変わった
AI導入で、経理のスキルは「処理」から「思考」へと軸が移りました。
| 時代 | 主な業務 | 求められるスキル |
|---|---|---|
| 2000年代 | データ入力・会計処理 | 知識と正確性 |
| 2010年代 | 会計システム運用 | ITリテラシー |
| 2020年代 | AIによる自動化 | プロンプト設計・分析思考 |
| 2030年代 | 経営参画・意思決定支援 | 戦略的判断力・倫理観 |
もはや「AIを使えるかどうか」が経理キャリアの分かれ道。
AIを恐れず、“共に働くスキル”を磨くことが最重要です。
第2章 プロンプト力 ― AIに「考えさせる質問力」
1️⃣ プロンプトとは何か
プロンプトとは、AIに出す“指示文”のこと。
AIは「質問がすべて」です。
曖昧な指示には曖昧な答え、具体的な指示には専門家級の答えが返ってきます。
2️⃣ 経理で使えるプロンプトの基本形
AIに的確な回答をさせるには、以下の4ステップ構成が効果的です。
【役割】あなたは〇〇の専門家です。
【内容】〇〇について説明・分析・作成してください。
【形式】〇〇の形式(表・箇条書きなど)でまとめてください。
【制約】〇〇の条件を守ってください。
たとえば、経費処理ルールを作る場合――
【役割】あなたは経理規定の専門家です。
【内容】在宅勤務手当の支給ルールを作成してください。
【形式】支給対象・金額基準・証憑・税務上の扱いを表にまとめてください。
【制約】中小企業でも実行可能な内容にしてください。
これだけで、AIは「即戦力レベルの経理文案」を生成します。
3️⃣ 良いプロンプトは「相手に背景を教える」
AIは“文脈”を理解して動きます。
したがって、質問の前に前提・目的・対象を伝えることが重要です。
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| 経費規程を作って | 「社員100人規模の製造業で、在宅勤務が増えている前提で経費規程を作成して」 |
| 財務分析をして | 「2024年度の決算データをもとに、営業利益率の変化要因を3点にまとめて」 |
AIは「背景を理解したうえで考える」とき、最も賢くなるのです。
第3章 分析力 ― AIの答えを“自分の言葉”で説明する力
AIが分析をしてくれる時代でも、「結果をどう解釈するか」は人間の仕事です。
経理が持つべき分析力とは、単に数字を読むことではなく、意味を語る力です。
1️⃣ 「数字→要因→行動」の3段階分析
AIが出した分析結果を報告に使うときは、次の3ステップで構成しましょう。
| ステップ | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| ① 数字 | 何が起きたか | 売上が前年同期比+10% |
| ② 要因 | なぜ起きたか | 新商品の寄与率が高かった |
| ③ 行動 | 次にどうするか | 生産体制を強化し販売エリアを拡大 |
この「要因と行動」を人間が補うことで、AIの分析は“経営提案”に変わります。
2️⃣ AI分析をそのまま使わない理由
AIは、過去データから一般的な結論を出します。
しかし、会社ごとの事情や文化までは理解しません。
だからこそ、AIが出した答えを“自分の言葉”で語り直すことが重要なのです。
AIが示す「原因」は“ヒント”、
経理が導く「意味づけ」が“価値”です。
第4章 AI経理スキルを高める3つの実践法
1️⃣ AIに日報を書かせてみる
→ 毎日の業務をAIに要約させることで、プロンプトの精度が上がります。
2️⃣ AIに“説明役”をさせてみる
→ 「この会計処理を新人に説明して」と指示。AIの出力をチェックすることで理解が深まります。
3️⃣ AIと“対話形式”で分析を行う
→ 「この数字の動きは何が原因?」「他の視点からも見て」と会話を重ねる。
AIを使うほど、分析の筋肉が鍛えられます。
第5章 AIを使いこなす経理が“経営を変える”
AIスキルとは、単にツールを使えることではなく、
AIと共に考える力を磨くこと。
これからの経理は、AIを駆使してこう変わります。
| Before | After |
|---|---|
| AIを使わされる | AIを使いこなす |
| 事務処理担当 | 経営支援パートナー |
| “作業者” | “思考者” |
AI経理とは、機械に任せる働き方ではなく、人の知恵を拡張する働き方なのです。
まとめ:AI経理の武器は「質問力」と「解釈力」
AIを活かす経理は、完璧な知識を持つ必要はありません。
必要なのは、
- 良い質問を投げかける力(プロンプト力)
- 答えを意味づける力(分析力)
AIが数字を出す。
人が意味を見つける。
この“共創のサイクル”を回せる人が、
AI時代の経理をリードしていくのです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
