AI時代のバックオフィス改革 ― 経理・人事・総務が経営を動かす日

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■ “自動化の波”の中で問われる存在意義

経理・人事・総務――いわゆる「管理部門」は、これまで企業を支える“縁の下の力持ち”でした。
しかし、生成AI・RPA・クラウド会計などの普及によって、その業務の多くが「定型処理」から「自動化可能な仕事」へと変わりつつあります。

実際、『企業実務』(2025年4月号)の全国調査では、管理職の39%が「クラウドシステムを導入済み」と回答する一方、30%はまだDXに未着手でした。
藤村博之氏(労働政策研究・研修機構理事長)はこの結果を次のように分析しています。

「DXが進まないのは“人にやらせた方が安い”という構造があるから。しかし、最低賃金の上昇と人材不足が進めば、遅かれ早かれ“人に頼らない経理・総務”への転換を迫られる」

AIは「経理を奪う」のではなく、「経理を進化させる」。
今、問われているのは――人にしかできない付加価値とは何か?という根本的な問いです。


■ ① AIが変えるバックオフィスの“3つの常識”

これまでの常識が、AIによって3つの面で覆りつつあります。

1️⃣ 「処理」から「判断」へ

仕訳・経費精算・請求書処理といったルーティン業務は、AIが瞬時に処理します。
人が担うのは、データをどう読むか、どう伝えるか――つまり「経営判断の翻訳」です。

2️⃣ 「属人化」から「共有化」へ

クラウドシステムによって、担当者個人の“ノウハウ”はチームで共有できる時代に。
バックオフィスは「人に頼る」から「仕組みに頼る」組織へと進化します。

3️⃣ 「作業」から「戦略」へ

AIが数字をまとめ、人が戦略を描く。
管理部門はもはや“事務処理部門”ではなく、“経営参謀室”としての役割を担う段階に入っています。


■ ② 「人を育てる余裕」が競争力になる

AI導入で効率化が進んでも、現場には新たな課題が残ります。
それは「人材の育成と余裕の欠如」です。

調査では、管理職の33.6%が「人材確保・採用」を最大の課題に挙げ、一般社員では「長時間労働」(25.2%)がトップでした。
藤村氏は次のように警鐘を鳴らします。

「長時間労働は、人が少ないから起きる。受注を減らすか、人を増やすか。勇気を持って“育てるための時間”をつくることが、5年後の企業力を決める」

人的資本経営が叫ばれて久しい今、“人を育てる余裕”こそ最大の競争力です。
AIに任せてできた時間を、次世代の育成に再配分できる企業だけが生き残るでしょう。


■ ③ 賃上げはコストではなく「投資」

生成AIや自動化ツールを導入すれば、短期的にはコスト削減が見込めます。
しかし藤村氏は、そこで満足してはいけないと語ります。

「賃上げできない経営者は、利益を出す力を失っている。賃金はコストではなく、将来の成長への投資だ」

AIによる効率化の目的は“人を減らす”ことではなく、“人に価値ある仕事をさせる”こと。
削減できたリソースを、賃金・教育・リスキリングに回すことこそが、本当の改革です。


■ ④ 経理・人事・総務の「新しいミッション」

『企業実務』の識者提言では、AI時代における管理部門の役割がこう整理されています。

部門従来の役割これからの役割
経理数字をまとめる数字で経営を導く
人事制度を運用する人材戦略を設計する
総務支援・調整役組織文化をつくる推進者

つまり、バックオフィスの“存在価値”は、「経営と現場をつなぐ知的インフラ」として再定義されようとしています。

AIがレポートを作る時代だからこそ、人が語る「意味」「方向性」「ストーリー」が求められるのです。


■ ⑤ 実務者が今すぐできる“3つのアクション”

AI時代のバックオフィス改革は、決して遠い未来の話ではありません。
今日から実践できる小さな一歩を、3つの観点で整理してみましょう。

1️⃣ デジタルスキルを習慣化する
 AI会計や生成AIのプロンプト操作など、週1時間の「デジタル練習時間」を設定する。

2️⃣ 外に学び、内に活かす
 セミナー・SNS・異業種交流など、外部との情報交換を積極的に。自社の“常識”を疑う時間をつくる。

3️⃣ 可視化と共有を徹底する
 属人化している業務をクラウドで可視化。
 「チームで管理する経理・人事・総務」への転換を進める。


■ 結語:AIと人の“協働経営”へ

AIが経理の仕訳を行い、RPAが給与明細を自動送信する――
そんな時代にこそ、管理部門には“人の意思”が求められます。

データを読む力、現場を理解する力、そして人を動かす力。
この3つが融合したとき、AIは真の「経営パートナー」になります。

バックオフィスの改革とは、単なる効率化ではなく、人とAIが共に働く「協働経営」への進化なのです。


✳ まとめ

経理は数字で語り、人事は人で動かし、総務は文化でつなぐ。
AIが自動化を進めても、“組織を温めるのは人”である。

それが、AI時代のバックオフィスの新しい答えです。


(出典:『企業実務』2025年4月号「時代が求める経理・人事・総務の在り方とは ― 管理部門の働き方再考」)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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