生成AIの急速な普及により、「SaaSはAIに代替されるのではないか」という議論が広がっています。
実際、業務系ソフトを手掛ける企業の株価が調整する場面もみられました。
しかし本当に、SaaSはAIに置き換えられてしまうのでしょうか。
むしろ今起きているのは、「代替」ではなく「再定義」だと考えます。本稿では、日本企業の動きを整理しながら、AI時代におけるSaaSの生存戦略を考察します。
SaaSはAIに代替されるのか
SaaSは、インターネット経由で提供される業務ソフトです。
多くはサブスクリプション型で、利用人数に応じて料金が決まります。
生成AIの進化により、
・経費精算
・請求書処理
・営業情報整理
・契約書レビュー
といった業務の一部が自動化可能になりました。
このため、「AIがあれば個別のSaaSは不要になるのではないか」という懸念が生まれています。利用人数が減れば、SaaS企業の収益モデルは揺らぎます。
ただし重要なのは、AIは“単体では業務を完結できない”という点です。
業務は必ず、制度・ワークフロー・内部統制・企業固有ルールと結びついています。ここにSaaSの存在意義があります。
ラクス・Sansan・マネーフォワードの戦略
① ラクス ― AIエージェントによる業務自動化
経費精算サービス「楽楽精算」を展開するラクスは、AIエージェントを実装し、領収書データから申請伝票を自動生成する機能を正式実装予定です。
単なる入力補助ではなく、
・勘定科目の推測
・関連データの自動ひも付け
・帳票作成までの自律処理
まで踏み込んでいます。
これは「AIに代替される側」ではなく、「AIを内包するSaaS」への転換です。
② Sansan ― データベース価値の再定義
営業データベースを提供するSansanは、外部AIサービスとの接続を可能にしました。
AIから企業データや営業履歴を参照できる仕組みです。
ここでのポイントは、「AIと共存することでデータの価値が高まる」という発想です。
汎用AIはデータを持ちません。
企業固有の営業履歴・取引履歴・人的ネットワークといったデータは、SaaS側に蓄積されています。
AIは“頭脳”ですが、SaaSは“記憶装置”です。
この組み合わせが競争力になります。
③ マネーフォワード ― 投資拡大による再構築
マネーフォワードはAI戦略を明示し、AIエージェント開発に積極投資しています。
交際費精算や経費申請などの領域を拡張し、プロダクト数を大幅に増やす方針です。
同社の示唆は明確です。
「AIはSaaSではなく、人の作業を代替する」
つまり、SaaSは消えるのではなく、より“作業実行レイヤー”へ進化すると考えられます。
弁護士ドットコムの示す方向性
法務領域では、弁護士ドットコムが業界特化型AIエージェントを展開しています。
ここで強調されているのは、
「汎用AIがアクセスできない業界別データの価値」
という点です。
判例データ、紛争データ、法律ファイナンス情報など、独自データを確保することで、単なるAI活用ではなく“専門特化型プラットフォーム”を構築しようとしています。
これはSaaS企業が生き残るための本質を示しています。
AI時代にSaaSが持つ3つの強み
整理すると、SaaSが生き残る鍵は次の3点に集約されます。
1.業務プロセスとの統合
AIは単体ではなく、企業内ワークフローと統合されて初めて機能します。
2.独自データの蓄積
汎用AIは公開情報を学習しますが、企業内部データにはアクセスできません。
ここが最大の差別化要因です。
3.制度対応力
日本企業の業務は、税制・会計基準・法令改正と密接に結びついています。
制度変更に即応できる仕組みは、SaaS企業の重要な付加価値です。
結論
SaaSはAIに代替されるのではなく、AIを組み込んだ「業務基盤」へ進化しつつあります。
汎用AIが強みを持つのは知識処理です。
一方、SaaSが強みを持つのは業務統合とデータ蓄積です。
今後の勝敗を分けるのは、
・どれだけ独自データを確保できるか
・どれだけ業界特化型に深化できるか
・どれだけ制度と連動できるか
にかかっています。
AI時代の本質は「代替」ではなく「再設計」です。
SaaS企業は消えるのではなく、構造転換を迫られているのです。
参考
・日本経済新聞「日本企業『SaaS』のAI代替回避へ 業務ソフト独自性磨く」(2026年2月26日朝刊)

