企業におけるAI活用は、もはや「導入するかどうか」の段階を過ぎ、「どれだけ使いこなしているか」を問う段階に入っています。
米国の大手コンサルティング企業アクセンチュアが、AIの利用状況を昇進条件の一つに組み込む方針を明らかにしたとの報道は、その象徴的な出来事です。
本稿では、AI利用が評価制度に組み込まれることの意味、企業経営上の背景、そして日本企業や専門職に与える示唆について整理します。
アクセンチュアの方針転換の概要
アクセンチュアは、一部幹部社員についてAIツールへのログイン状況を週次で集計し、昇進議論に反映させる方針を打ち出しました。対象には自社開発の企業向けAIプラットフォームなどが含まれます。
報道によれば、2026年夏の昇進審査において、AI活用の実績が「目に見える形で」考慮されるとされています。
同社は世界約80万人の従業員を抱え、AI活用を前提とした再教育計画も進めています。再教育が困難と判断された人員については整理も進めているとの報道もあります。
これは単なる「ITスキル評価」ではなく、AIを前提とした企業変革の一環と理解すべきでしょう。
なぜ「利用ログ」が評価対象になるのか
企業側の論理は明確です。
- 顧客にAIサービスを提供する企業である以上、社員自身がAIを使いこなす必要がある
- AI活用は生産性と付加価値創出に直結する
- 利用実績は客観データで可視化できる
つまり、AI活用は努力目標ではなく「業務基盤」となったのです。
実際、KPMGもAI利用データを評価に活用する計画が報じられています。
マイクロソフトのCopilotなどから利用データを取得し、業績評価に反映する動きも出ています。
さらに、アマゾン・ドット・コムやメタでもAI利用が昇進や評価の指標になるとの報道があります。
AIは「使う人」と「使わない人」の差が、組織的に測定される段階に入りました。
これは監視なのか、能力開発なのか
ここで重要なのは視点です。
AI利用状況の収集は「監視」とも言えます。しかし企業側の論理は、むしろ次のようなものです。
・AI活用が標準業務となる
・活用できない人材は競争力を持てない
・顧客への価値提供が困難になる
つまり、企業にとっては「能力開発の強制力」としての側面が強いと考えられます。
ただし、形式的なログイン回数が評価されるようになれば、形だけの利用が増える可能性もあります。
本質は「利用時間」ではなく「業務成果にどう結びついたか」です。
評価制度の設計次第では、形骸化や逆インセンティブも起こり得ます。
日本企業への示唆
日本企業では、まだAI活用が任意の取り組みであるケースが多いのが現状です。
しかし、海外大手企業が評価制度にAIを組み込む流れを加速させれば、日本企業も無関係ではいられません。
特に次の点が問われるでしょう。
・AI活用を評価制度にどう組み込むか
・活用機会を公平に提供できているか
・再教育と人材整理の線引きをどう考えるか
AIを「導入」する段階から、「使わないことがリスクになる段階」へと移行しています。
専門職への影響
コンサルタント、会計士、税理士、弁護士などの専門職も例外ではありません。
AIは資料作成、要約、分析、ドラフト作成などで急速に実務を変えています。
今後は「AIを使えるか」ではなく、「AIを使ってどれだけ高付加価値化できるか」が問われます。
利用実績の可視化が進めば、専門職も次の分岐点に立つ可能性があります。
・AIを活用して業務を高度化する人
・従来型のやり方に固執する人
評価制度が変われば、キャリアの構造も変わります。
結論
アクセンチュアの動きは、AI活用が「努力目標」から「評価基準」へと変わる転換点を示しています。
AIを使うかどうかは個人の選択ではなく、組織競争力の問題になりつつあります。
企業は再教育を進めつつ、活用できない人材の整理も進める。厳しい現実ですが、構造変化の中では避けられない流れとも言えます。
今後、日本企業や専門職にとって重要なのは次の一点です。
AIを「脅威」と見るか、「拡張装置」と見るか。
評価制度に組み込まれるという事実は、AIが既に経営基盤の一部になったことを意味します。
この変化にどう向き合うかが、今後の組織と個人の分水嶺になるでしょう。
参考
日本経済新聞「アクセンチュア、AI利用を昇進条件に」2026年2月20日夕刊
フィナンシャル・タイムズ報道
ブルームバーグ報道
ジ・インフォメーション報道

