AIが経費処理を提案し、AIが決算書を分析し、AIがリスクを警告する――
そんな日常が、経理の現場にも当たり前になりつつあります。
でも、ここで立ち止まって考えたいのがひとつ。
「AIが提案した内容を、どこまで信用していいのか」ということです。
AIは論理的ですが、倫理的ではありません。
判断の最終責任を負うのは、常に「人間=経理担当者」なのです。
本稿では、AI時代に求められる経理の倫理とルール設計について考えます。
第1章 AIの“正確さ”と“正しさ”は違う
AIの回答は一見、正確で理路整然としています。
しかし、それが「倫理的に正しい」とは限りません。
例えば――
- AIが効率性を優先して「取引先との会食費を一律に経費化」と提案
- AIが数字だけを見て「高齢従業員の人件費削減が最適」と分析
どちらも“計算上の正しさ”では正解かもしれません。
しかし、人間としての判断・倫理としての適切さを欠く可能性があります。
AIの“正確さ”に引っ張られすぎないために、
私たちは「AIを使う倫理のルール」をあらかじめ設計しておく必要があります。
第2章 経理における「AI倫理リスク」とは
AIを業務に導入するとき、経理・会計の現場では次の3つの倫理リスクが発生します。
1️⃣ 責任の所在が曖昧になる
AIの提案を採用した場合、誤りがあったとき「誰の責任か」が不明確になりがち。
2️⃣ “便利だから”で基準を緩める
AIの提案が速く、的確に見えるほど、内部統制を省略してしまう危険があります。
3️⃣ AIへの過信が“思考停止”を招く
「AIがそう言うなら」と判断を委ねることが、倫理的リスクの始まりです。
AI活用の成否は、「どこまで任せ、どこから止めるか」を明確にできるかにかかっています。
第3章 “判断を委ねない”ためのAI利用ルール設計
経理部門がAIと共存していくために、以下のようなルール設計の原則を持つとよいでしょう。
| 区分 | ルール例 | 解説 |
|---|---|---|
| ① AIが行ってよい範囲 | 定型処理・文書ドラフト・データ整理 | 人の監督下で効率化目的に限定 |
| ② AIが行ってはいけない範囲 | 判断・承認・署名・最終報告 | 責任主体が人である領域 |
| ③ AIの判断を採用する条件 | 二重チェック or 人間承認必須 | “AIだけで完結しない”仕組みを制度化 |
| ④ AIの出力利用時の明示義務 | 「AIによる草案」と記載する | 意図的な誤用を防ぐ |
| ⑤ 社内倫理指針の明文化 | AI活用ポリシー・責任範囲・再確認プロセス | 定期的に見直しを行う |
これらのルールを整備しておけば、AIを使っても「最終判断は人」が守られます。
第4章 AIを“補助輪”にする思考法
AIとの共存において重要なのは、「AIを使いこなす」ではなく、
「AIと一緒に考える」という姿勢です。
AIの提案は、“仮説”にすぎません。
その仮説を検証し、責任をもって採用するかどうかを決めるのが人間の仕事です。
プロンプトを工夫する際も、次のように「倫理の視点」を加えると良いでしょう。
【役割】あなたは経理と倫理の両方に詳しい専門家です。
【内容】AIを経理業務に活用する際の注意点と、判断を委ねすぎないための方針を示してください。
【形式】①倫理的リスク②回避策③実務に落とし込む方法の3部構成で。
【制約】経営判断をAIに委ねない原則を前提にしてください。
AIが“考えの枠”を広げ、人間が“判断の軸”を保つ。
そのバランスが、AI倫理の核心です。
第5章 AI時代の「経理倫理教育」が必要になる
今後、AIを使う経理部門には、倫理教育が欠かせなくなります。
会計基準や税法の知識だけでなく、次のような視点が求められます。
- AIが出した結果をどう検証するか
- データ入力の責任と守秘義務
- 公平性・説明責任・透明性の確保
- 「AI依存」を防ぐためのチーム内コミュニケーション
これらは、AI導入後の企業文化そのものを支える柱になります。
第6章 AI倫理の最終原則 ― 「誰が判断するか」を明確に
最後に、AIと経理が共存する時代における基本原則を整理します。
AIは提案する。
人が判断する。
責任は人が負う。
この原則が守られている限り、AIは経理にとって最高のパートナーになります。
しかし、境界線を曖昧にした瞬間、倫理の土台が崩れます。
AIが生み出すスピードと便利さの中で、
人間が守るべきものは、信頼と責任。
それこそが、AI時代に生きる経理人の“倫理”なのです。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
