AIと税務リスク管理 ― 国税庁データ連携時代の実務対応――「見られる前提」で整える会計へ

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■ 序章:AIが選ぶ時代の「税務リスク」とは

2025年、国税庁はAIによる税務調査の“選定強化”を本格化させました。
銀行・証券・マイナンバー・インボイス・電子帳簿――。
これらのデータが相互に連携し、AIが自動で「不自然な動き」や「異常値」を検知します。

つまり、税務調査の入り口が人の“勘”からAIの“アルゴリズム”に変わったのです。
この環境では、もはや「バレなければいい」という発想は通用しません。
AI時代の税務リスク管理とは、「見られても困らない状態を常に保つこと」を意味します。


■ 1. 国税庁のデータ連携強化 ― 「申告内容はすべて照合可能」

近年、国税庁は複数の外部データベースとの連携を進めています。
以下は、AIによる税務リスク分析の“材料”となる主な情報源です。

情報源内容連携状況
インボイス制度取引先・取引額・課税区分AIで課税・免税パターンを分析
マイナンバー制度銀行・証券・保険・給与情報個人別に統合管理
電子帳簿保存法帳簿・領収書・請求書電子データとして直接照会可能
証券・暗号資産データ株式・仮想通貨の取引履歴海外口座も自動照合対象
クラウド会計連携会計ソフト・仕訳データAI解析で異常取引検出

これらは、AIが統計的に「不自然」と判断すれば、
自動的に“調査対象リスト”に上がる可能性があります。
つまり、リスクはデータの中に潜んでいるのです。


■ 2. AIが注目する「リスクシグナル」5選

AIが税務リスクを高いと判断する典型的なパターンには、以下のようなものがあります。

  1. 前年からの利益率変動が大きい(±30%以上)
  2. 交際費・外注費・広告費などが業界平均から乖離
  3. インボイス登録事業者との取引割合が極端に低い
  4. 銀行入出金と売上高・仕入高の整合性が取れない
  5. 給与支給データと源泉徴収額にズレがある

AIは単純な“申告漏れ”だけでなく、
数字の不整合や取引関係の不自然さをもとに「異常値」を検出します。
このため、「意図せぬ入力ミス」や「会計処理のクセ」までがリスクになる時代です。


■ 3. AI時代の税務リスク管理 ― 実務で取るべき3つの対策

① データの一貫性を保つ

AIは数値の連携を重視します。
売上・仕入・在庫・入金のデータが一貫しているかどうかが最重要。
クラウド会計や請求書発行ツールを使う際も、取引情報を統一IDで管理することが求められます。


② 「AIに説明できる会計資料」を作る

AIは“なぜ”を理解しません。
だからこそ、異常値の根拠を説明できる資料を残すことが重要です。

  • 投資や一時的赤字 → 取締役会議事録や事業計画書
  • 特定取引の急増 → 契約書・見積書・メール記録
  • 経費増加 → イベント・広告などの証憑

これらを電子帳簿保存法の要件に沿って整理しておけば、
調査時にAIが出した“疑義”を人間が合理的に説明できる状態を保てます。


③ 内部チェックをAIと人で二重化する

AI会計ツール(freee、マネーフォワード、弥生オンラインなど)には、
すでに「異常値検知」機能があります。
それを定期的に走らせ、人の目でも最終確認を行うことで、
“AIに先回りしてリスクを見つける”社内監査体制を構築できます。


■ 4. 税理士の新しい役割 ― 「AI監査前提の顧問業務」

AIによる税務リスク分析が常態化する時代、
税理士の役割は「申告書作成」から「AI監査対応コンサル」へと広がります。

  • 顧問先の会計データをAIでスクリーニング
  • 業界平均との乖離を分析し、改善提案
  • 国税庁AIの着眼点を想定した“防御型レビュー”の提供

つまり、税理士は「AIを使う側」から「AIに見られる側」を支援する立場へ。
これが、次世代のAIリスク対応型税務顧問の形です。


■ 5. 税務コンプライアンスの新常識 ― “隠す”ではなく“整える”

AI時代の税務リスク管理は、
もはや「見つからないようにする」ことではありません。

むしろ、「見られても説明できる状態に整えておく」こと。
そして、「AIが見て違和感を持たない帳簿」を作ることです。

そのためには――

  • データの整合性
  • 証拠資料の体系化
  • 数値変動の合理的説明

これら3点を常にアップデートしておく必要があります。


■ 結び:AIと共に「透明な税務」を育てる

AIによって、税務の世界は「発見の時代」から「予測の時代」へ移行しました。
人の感覚や経験に依存していた“勘どころ”が、
データとアルゴリズムによって再現されつつあります。

しかし、それでも税務の本質は変わりません。
それは――「説明できること」こそ最大の防御であるという原則です。

AIは敵ではなく、透明性を高めるための相棒。
AIが“見る”前提で、帳簿を整え、根拠を残し、税務を設計する。
その意識こそが、これからのリスク管理の最強の武器となるでしょう。


出典:国税庁「税務行政のDX推進方針2025」/総務省「AI・データ活用に関する行政実務ガイドライン」/日本経済新聞(2025年10月21日朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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