美容家電や化粧品といえば、競争が激しくトレンドの移り変わりも早い業界です。そんな中で、「1人あたり売上高は同業の10倍」という驚異的な数字を誇る企業が登場しました。
その名はAiロボティクス。2016年創業、わずか数十名の社員で次々とヒット商品を生み出し、上場後わずか1年あまりで株価を3倍に伸ばしています。
■ 人がやっていた仕事をAIが担う
Aiロボティクスの最大の強みは、自社開発の広告運用自動化AI「SELL(セル)」です。
広告デザイン、記事執筆、出稿、インフルエンサー選定――これまで人の感覚と経験に頼っていた領域をAIが代替しています。
バナー広告では、AIが一度に数百種類の案を生成し、「誰が・いつ・どんな広告を見て・何を買ったか」をリアルタイムで分析。
反応をもとに即座に広告配信を最適化します。
オンライン販売比率は9割。ECサイトとモールを統合管理し、顧客行動データを活用。リピート率や顧客獲得コストを細かく予測できる仕組みが整っています。
■ 従業員27人で営業利益24億円
Aiロボティクスの従業員数は27人(2025年3月末時点)。
1人あたり売上高は5億2600万円。
同業のヤーマンやMTGの10倍以上にあたります。
製造は外部委託し、企画・開発・マーケティングに集中することで粗利率は約8割。
少人数ゆえに販管費も軽く、営業利益率は17.5%と他社を圧倒しています。
龍川誠社長は「AIを武器に、ワンピースやドラゴンボールのような個性の集団を目指す」と語ります。
この比喩が示すように、チームは少数ながらも専門性と熱量を持つプロフェッショナル集団です。
■ ブランド戦略:「Brighte」「Yunth」「Straine」
ヒットの原動力となったのが、2024年に始まった美容家電ブランド「Brighte(ブライト)」。
ドライヤーや美顔器など累計35万台以上を販売しました。
スキンケアでは美容液ブランド「Yunth(ユンス)」が主力で、定期会員は15万人超。
安定した定期購入層が企業の収益基盤を支えています。
さらに、ヘアケアブランド「Straine(ストレイン)」など、カテゴリーごとにブランドを展開し、ファン層の裾野を広げています。
■ 目標は時価総額1兆円へ
Aiロボティクスは2028年度に売上高2200億円・純利益280億円を目指します。
PER35倍を前提にすれば、時価総額1兆円の企業を狙う計算です。
現在の時価総額は1000億円超。
そのために、今後は毎年1ブランドを立ち上げ、食品・雑貨などライフスタイル分野にも進出する計画を掲げています。
M&A(企業買収)にも意欲的で、売上100億円規模の企業を数十億~100億円で買収する構想もあります。
また、海外展開では、2028年度に**海外比率20%**を目標。現在は中国を中心に約2.7%にとどまっています。
■ 投資先行でも「計画通り」
25年4~6月期は広告や新商品投入で費用がかさみ、純利益は前年同期比99.9%減。
一見すると苦しい数字ですが、会社側は「計画通りの先行投資」と説明しています。
下期での回収を見込み、通期では営業利益48億円(前期比2倍)を予想しています。
■ トレンド変化の速い業界でどう戦うか
ただ、美容関連は流行の移り変わりが激しい世界。
いちよし経済研究所の甲斐友美子氏は「売上1000億円を超えたとき、今の少数・高効率経営を維持できるかが課題」と指摘しています。
拡大と効率の両立は簡単ではありません。
AIによる省人化をどこまで進化させ、組織の柔軟性を保てるか。
“人×AI”のバランスが、Aiロボティクスの次の成長ステージを左右しそうです。
■ 編集後記:AIで「小さくて強い会社」をつくる時代へ
Aiロボティクスの事例は、「AIを使って仕事を置き換える」ではなく、
AIを使って少人数で大企業並みの成果を出すという新しい経営モデルを示しています。
これは美容業界に限らず、あらゆる中小企業が目指せる方向性です。
人手不足の時代に「効率」を武器にするのではなく、AIで“個の力”を最大化する。
この発想こそ、次の時代の企業経営のヒントになるのではないでしょうか。
出典:2025年10月9日 日本経済新聞朝刊「販促にAI、1人10倍稼ぐ 美容家電のAiロボ」
(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91821870Y5A001C2DTB000/)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

