経理の世界で最も避けたいのが、不正や誤謬の見落としです。
しかし現実には、
- 二重支払い
- 不自然な経費精算
- 架空仕入・循環取引
などが、人の目をすり抜けて起きています。
AIの登場により、これまで経験と勘に頼っていたチェックが、
データ分析に基づく「客観的な不正検出」へ進化しています。
AIは疲れず、感情に左右されず、
膨大な取引データを“パターン”として見抜く――。
それが、AIによる経理リスク管理の新時代です。
第1章 AI不正検出の仕組み ― “異常を探す”から“理由を示す”へ
AIは単に「おかしい取引」を挙げるだけではありません。
近年は「なぜそれが異常なのか」を説明できる段階に進化しています。
🔹 たとえば、こんな検出が可能です
| 不正リスク | AIの検出ポイント | 出力例 |
|---|---|---|
| 二重支払い | 同額・同日・同取引先 | 「仕入先Aに同額振込が2件」 |
| 架空経費 | 金額異常・摘要文の曖昧さ | 「交際費に“業務協力費”多数」 |
| 不自然な仕訳 | 勘定科目の不一致 | 「会議費が通常月比+300%」 |
| 改ざん・虚偽報告 | 数字の“丸め”傾向 | 「売上が常に100万円単位で端数なし」 |
AIは、数字そのものよりも「パターンの異常」に反応します。
つまり、「人が見逃す不自然さ」を言語化できるのです。
第2章 ChatGPTでできる“AI監査アシスタント”
AIを監査チェックに活かすなら、ChatGPTも立派な相棒になります。
月次試算表や仕訳データを入力(数値は加工可)して、
次のようなプロンプトを使ってみましょう。
🔹 プロンプト例:不正兆候チェック
【役割】あなたは内部監査担当者です。
【内容】以下の月次試算表データから、異常な増減や不自然な取引の可能性を指摘してください。
【形式】①科目名②異常内容③考えられる要因④確認すべき資料を表にまとめてください。
【制約】不正・誤謬の両面から確認してください。
AIの出力例:
「交際費:前月比+180%。特定部署に集中。→会合・接待実態の確認要」
「雑費:摘要‘諸経費’が多い。→支払明細の再確認推奨」
このように、AIは数字の“裏”を自然言語で説明してくれます。
第3章 AIが得意な「リスクパターン」3選
AIが最も効果を発揮するのは、人の注意が行き届きにくいパターン領域です。
① 金額の“ズレ”パターン
- 「いつもより少し高い」「端数が揃いすぎる」などの微妙な異常をAIが抽出。
→ 定期発注・仕入先請求の過誤を早期発見。
② 文章の“違和感”パターン
- 経費の摘要欄に「その他」「協力費」「立替金」などが頻出。
→ ChatGPTは文脈学習で“曖昧な説明”を警告。
③ タイミングの“不自然”パターン
- 月末や休日に集中する支出、特定社員に偏る精算申請。
→ AIが時系列分析で検出し、「意図的操作の可能性」を示唆。
第4章 AIによる“不正防止”の実務活用
AIを「検出ツール」にとどめず、「予防システム」として活かすには、
次の3ステップが有効です。
| ステップ | 内容 | 実務ポイント |
|---|---|---|
| ① 定期チェックの自動化 | 月次・四半期ごとにAIで抽出 | RPAやExcel Copilotで自動実行 |
| ② 異常検知の共有 | 部門別にレポート化 | ChatGPTで要約文を自動作成 |
| ③ フィードバック学習 | 修正結果をAIに再入力 | 次回精度が向上する仕組み |
AIの特徴は“学び続けること”。
人が修正した内容を再度学習させれば、
「企業専用のAI監査モデル」に育てていくことも可能です。
第5章 AI不正検出の限界と“人の倫理”
AIは膨大な取引を高速で分析できますが、
「悪意」や「ごまかしの意図」までは読み取れません。
だからこそ、最終判断を下すのは人間。
AIの結果をもとに、「なぜそうなったか」を掘り下げるのが経理の使命です。
AIが“不正の兆し”を示し、
人が“誠実さの境界”を守る。
そのバランスこそが、AI時代の内部統制の根幹になります。
第6章 AI×内部統制 ― 経理を「守る仕組み」から「信頼の仕組み」へ
従来の内部統制は、「誤りを防ぐ仕組み」でした。
しかしAI導入後は、「信頼を可視化する仕組み」へと変わります。
| 旧来の統制 | AI時代の統制 |
|---|---|
| ミスを防ぐ | 不正を予測する |
| 人がチェック | AIが自動検出 |
| 結果を報告 | プロセスを共有 |
| 部署単位 | 全社的データ統合 |
AIが全社データを横断的に監視し、
経理・監査・経営が「共通の信頼情報」をリアルタイムで確認できる。
これが、AI経理が目指す未来の内部統制像です。
まとめ:AIは“経理の良心”を支えるパートナー
AIは、不正を暴く監視者ではありません。
正しく使えば、経理の誠実さを支える相棒になります。
AIが数字を見張り、
人が正しさを選ぶ。
AIが異常を示し、
人が理由を説明する。
AIが「信頼の見える化」を進め、
経理が「信頼の文化」を育てる。
そのとき、経理は単なる管理部門ではなく、
企業の良心を守るプロフェッショナルへと進化します。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
