相続税を計算するうえで避けて通れないのが「財産の評価」です。
相続財産は、亡くなった日の時点の「時価」によって評価されますが、この「時価」が何を指すのかが問題になります。株式や預金は比較的わかりやすいものの、不動産は複雑で、税額に大きく影響します。
今回は、国税庁パンフレット(令和7年分用)をもとに、財産ごとの評価方法を解説します。
1. 不動産の評価
相続税において最も悩ましいのが不動産の評価です。
(1) 土地の評価
土地は「路線価方式」または「倍率方式」で評価します。
- 路線価方式
国税庁が毎年公表する「路線価」(1㎡あたりの評価額)を基準に計算します。
路線価は公示地価の8割程度を目安に設定されているため、実際の取引価格よりも低めになるケースが多いです。 - 倍率方式
路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します。
(2) 建物の評価
建物は、固定資産税評価額をそのまま利用します。
ただし老朽化などによる減価が考慮されているため、時価よりも低い評価になることが多いです。
2. 有価証券の評価
株式や投資信託などの有価証券は、亡くなった日の「終値」や「基準価額」を基準に評価します。
- 上場株式:亡くなった日の終値
(亡くなった月、前月、前々月の平均値を選択することも可能) - 投資信託:亡くなった日の基準価額
- 非上場株式:類似業種比準方式や純資産価額方式で評価
非上場株式は評価が難しく、専門家のサポートがほぼ必須となります。
3. 現金・預貯金の評価
現金はそのままの金額で評価します。
預貯金については、亡くなった日の残高証明書に記載された金額で評価します。
注意点として、定期預金は中途解約可能額で評価する点があります。また、利息は相続開始時点までの未払い分も含めます。
4. その他の財産の評価
- 生命保険金:保険会社の支払額をそのまま評価額とします(非課税枠あり)。
- 死亡退職金:支給額そのまま(非課税枠あり)。
- 動産(自動車・貴金属・宝石・美術品など):市場価格や鑑定評価額を用います。
5. 評価を軽減できる特例
相続税には「小規模宅地等の特例」など、評価額を下げられる制度があります。
(1) 小規模宅地等の特例
- 居住用宅地:330㎡まで、評価額を80%減額
- 事業用宅地:400㎡まで、評価額を80%減額
- 貸付事業用宅地:200㎡まで、評価額を50%減額
この特例を使えるかどうかで、相続税額が大きく変わることがあります。
(2) その他の特例
- 農地の納税猶予
- 特定同族会社株式の評価減
などもあり、条件を満たせば大幅な節税につながります。
6. ケーススタディ
ケース1:自宅を相続する場合
自宅(土地200㎡、路線価5万円/㎡)を子が相続するケース。
評価額は1億円ですが、「小規模宅地等の特例」を適用すれば80%減額され、評価額は2,000万円に圧縮されます。
ケース2:上場株式を相続する場合
株式1,000株を所有。亡くなった日の終値は1,200円、前月平均は1,150円、前々月平均は1,180円。
最も低い1,150円を選んで評価すれば、評価額は115万円となり節税につながります。
7. 評価の落とし穴
- 名義預金を見落とすと追徴課税の可能性
- 非上場株式の評価を誤ると税務調査の対象になりやすい
- 小規模宅地等の特例は「申告しないと適用されない」
相続税申告において「財産の評価」は最もトラブルの多い分野です。専門家に依頼することで、適正な評価と特例の適用が可能になります。
まとめ
- 不動産は「路線価方式」または「倍率方式」で評価
- 株式は亡くなった日の終値や平均額で評価、非上場株式は専門的評価
- 預貯金は残高証明、定期預金は中途解約可能額で評価
- 小規模宅地等の特例により、最大80%減額可能
- 評価は申告書に記載しないと特例が適用されない
相続税は「評価次第で税額が大きく変わる」税金です。正確に評価し、特例を活用することが負担軽減のカギとなります。
次回は「申告に必要な書類と準備ステップ」を解説します。
参考資料
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
