税務調査において、同じような取引を行っていても、問題にならない会社と指摘を受ける会社があります。
この差はどこから生まれるのでしょうか。
制度を理解しているかどうか、処理が正確かどうかも重要ですが、それだけでは決定的な違いにはなりません。
最も大きな分かれ目は、「説明できるかどうか」にあります。
本稿では、その違いを実務の観点から整理します。
両者の違いは結果ではなくプロセスにある
説明できる会社とできない会社の違いは、結果そのものではありません。
どちらの会社も、
- 契約を締結し
- 取引を行い
- 支払処理を行っている
という点では同じです。
違いは、その過程をどれだけ把握し、整理し、記録しているかにあります。
ケース① 振込手数料の処理
まず、典型的な例として振込手数料を考えます。
説明できる会社
- 手数料は発注側負担に統一されている
- 支払金額は契約どおり
- 処理ルールが社内で共有されている
この場合、処理の一貫性があり、説明も容易です。
説明できない会社
- 一部の取引で手数料を差し引いている
- 担当者によって処理が異なる
- なぜその処理をしているのか不明確
このような場合、調査官の問いに対して一貫した説明ができません。
ケース② 単価の変動
次に、単価の変動に関するケースです。
説明できる会社
- 単価変更の理由が記録されている
- 交渉の経緯が整理されている
- 変更時期と背景が一致している
この場合、単価の変動は合理的なものとして説明できます。
説明できない会社
- 単価が突然変わっている
- 理由が曖昧である
- 誰が決定したのか分からない
このような状態では、不適切な取引と疑われる可能性があります。
ケース③ 証憑管理
証憑の管理も重要な差となります。
説明できる会社
- 証憑が体系的に整理されている
- 取引と証憑が紐づいている
- 必要な情報がすぐに提示できる
説明できない会社
- 証憑は存在するが散在している
- 取引との対応関係が不明確
- 必要な情報をすぐに提示できない
証憑はあるだけでは不十分で、説明に使える状態であることが重要です。
共通する違いは「設計」の有無
これらのケースに共通するのは、「設計されているかどうか」です。
説明できる会社では、
- ルールが明確である
- 業務フローに組み込まれている
- データが整理されている
一方で、説明できない会社では、
- 担当者の判断に依存している
- 例外処理が積み重なっている
- 全体像が把握されていない
という特徴があります。
調査官が評価しているポイント
調査官は、単にミスの有無を見ているわけではありません。
重要なのは、
- 一貫性があるか
- 合理性があるか
- 説明可能性があるか
この三点です。
多少の誤りがあっても、これらが満たされていれば、大きな問題にならない場合もあります。
説明できる状態を作るための実務
説明できる会社になるためには、次の対応が重要です。
- 判断基準の明確化
- 取引プロセスの記録
- データと証憑の連動
- 社内での認識共有
これらを日常業務の中で実践することが必要です。
結論
税務調査における本質的な差は、処理の巧拙ではなく、説明できるかどうかにあります。
説明できる会社は、取引の一貫性と合理性を持ち、それを裏付ける情報を整備しています。
一方で、説明できない会社は、個別の処理に問題がなくても、全体としての整合性を欠いています。
制度対応の本質は、正しい処理を行うことではなく、その処理を説明できる状態を作ることにあります。
経理部門には、この状態を実現する中心的な役割が求められています。
参考
企業実務 2026年4月号
中小企業庁 公表資料 中小受託取引適正化法の概要
国税庁 税務調査に関する基本的考え方
国税庁 適格請求書等保存方式に関する解説資料