2026年度予算案の成立が年度内に間に合わない見通しとなり、政府は暫定予算を提出しました。この動きは単なる手続き上の問題ではなく、日本の国会構造、とりわけ参議院の役割を改めて浮き彫りにしています。
本稿では、暫定予算の意味とともに、「なぜ首相の強いリーダーシップが参院では通用しないのか」という点を整理します。
暫定予算とは何か
暫定予算とは、本予算が成立しない場合に備えて、一定期間の支出を確保するための予算です。
今回の暫定予算は約8.5兆円規模で、対象期間は4月1日から11日までの11日間です。社会保障費など、停止できない支出が中心となります。
本来、予算は年度開始までに成立させるのが原則です。しかし、政治日程の遅れや国会審議の停滞により、例外的に暫定予算が必要となります。
今回の直接的な原因は、衆議院の解散・総選挙によって審議開始が遅れたことにあります。
衆院では成立、参院で止まる構造
今回の特徴は、衆議院では強い与党の力で予算審議を進められた一方、参議院では同じ手法が通用しなかった点にあります。
衆議院では与党が圧倒的多数を占めており、日程の強行も可能でした。しかし参議院では与党が過半数を持たず、野党の協力が不可欠となります。
この違いが、以下のような結果を生みます。
- 衆院:数の力で押し切れる
- 参院:合意形成が不可欠
つまり、日本の国会は「二院制によるブレーキ構造」を持っており、参議院がその役割を担っています。
参院の「独立性」という本質
参議院が衆議院と決定的に異なるのは、その制度設計にあります。
主な特徴は次の通りです。
- 任期6年で解散がない
- 議員構成が安定しやすい
- 党総裁(首相)の人事権が及びにくい
このため、参議院は「首相に従う組織」ではなく、独自の意思決定を持つ政治主体として機能します。
実務的にも、参院幹部は党内で選出されるため、首相の意向をそのまま反映させることはできません。
ここに、「高市1強」といわれる状況でも参院ではコントロールが効かない理由があります。
なぜ参院は審議時間にこだわるのか
今回、参院が重視したのは「審議時間の確保」でした。
これは単なる形式的な問題ではなく、参院の存在意義に関わる論点です。
参議院はしばしば「良識の府」と呼ばれますが、その意味は次の点にあります。
- 世論に流されにくい
- 時間をかけて議論する
- 政策のチェック機能を果たす
そのため、審議時間の短縮は「参院の役割の否定」と受け取られやすく、与野党を問わず抵抗が生じます。
少数与党が強める参院の影響力
今回のもう一つの重要なポイントは、「少数与党であること」が逆に参院の力を強めている点です。
与党が過半数を持たない場合、
- 法案成立には野党の協力が必要
- その調整役として参院幹部の重要性が増す
結果として、参院自民党の発言力が高まり、首相であっても無視できない存在となります。
これは一見すると逆説的ですが、日本の政治構造では自然な帰結といえます。
今後の政治運営への示唆
今回の事例から見えてくるのは、日本の政治が単純な「強いリーダーシップ」だけでは動かないという現実です。
特に参議院は、
- 与野党の力が拮抗する場
- 長期的な視点で調整が行われる場
として機能しています。
今後、高市政権が安定的に政策を実現するためには、
- 野党との部分的な協調
- 参院との関係構築
- 日程ありきではない審議運営
が不可欠になります。
結論
暫定予算の提出は単なるスケジュールの遅れではなく、日本の二院制の本質を示す出来事でした。
衆議院の「数の政治」と、参議院の「調整の政治」は性質が異なります。
そして現在のようなねじれに近い状況では、参議院こそが政策決定の鍵を握ります。
強い政権であっても、その力が及ばない領域がある。この構造を前提に政治運営を行うことが、今後ますます重要になるといえます。
参考
日本経済新聞 2026年3月28日 朝刊
「暫定予算案8.5兆円を国会提出 『高市1強』阻む参院の論理」