令和8年度税制改正を通じて、資産課税の方向性は大きく変わりました。貸付用不動産の評価見直しに象徴されるように、短期的な節税スキームは通用しにくくなり、実態や長期性を重視する課税へと移行しています。
これまでのシリーズでは、制度の内容、実務への影響、そして勝つ人・負ける人の違いを整理してきました。本稿ではその総まとめとして、「では具体的に何から始めるべきか」を段階的に整理します。
ステップ①:現状の資産構造を正確に把握する
相続対策の出発点は、現状把握です。
具体的には、
- 現金・預金の残高
- 不動産の内容と評価額
- 有価証券・保険
- 借入金の状況
を一覧化します。
このとき重要なのは、
時価ベースでの把握
です。
今回の改正により、評価は今後ますます実勢価格に近づいていく可能性があります。したがって、従来の相続税評価額だけでなく、
- 実際に売却した場合の価格
- 収益性
も含めて把握することが重要です。
ステップ②:将来の相続発生時点を想定する
次に行うべきは、「時間軸」の設定です。
- 相続がいつ発生する可能性があるか
- その時点で資産がどうなっているか
を仮定します。
今回の改正では、
- 取得後5年以内かどうか
が重要な判断要素となります。
したがって、
時間を味方につける設計が可能かどうか
をこの段階で検討する必要があります。
ステップ③:課税額の試算とリスクの可視化
現状と将来像が整理できたら、相続税の試算を行います。
ここでは、
- 現行制度ベースの試算
- 改正後の影響を考慮した試算
の両方を行うことが重要です。
特に注意すべき点は、
- 評価方法の変更による影響
- 特例の適用可否
- 納税資金の不足
です。
この段階で、
どこにリスクがあるのかを明確にする
ことが重要です。
ステップ④:対策の優先順位を決める
相続対策はすべてを一度に行う必要はありません。
重要なのは、
- 何を優先するか
- 何を後回しにするか
を決めることです。
一般的には、
- 納税資金の確保
- 分割対策(争族回避)
- 節税対策
の順で検討するのが基本です。
今回の改正を踏まえると、
節税だけを目的とした対策の優先順位は相対的に下がる
といえます。
ステップ⑤:長期前提で資産を再設計する
今回の改正後の最大のポイントはここです。
- 短期的な評価引下げではなく
- 長期的な資産設計
が求められます。
具体的には、
- 不動産を取得する場合は保有期間を意識する
- 賃貸事業としての実態を確保する
- 資産の分散を図る
といった視点です。
ここで重要なのは、
税制ありきではなく、資産の持ち方から考えること
です。
ステップ⑥:制度変更を前提に柔軟に見直す
税制は一度決まれば終わりではありません。
今回の改正もその一例ですが、
- 評価方法の見直し
- 特例の縮小・廃止
は今後も起こり得ます。
したがって、
- 定期的な見直し
- 環境変化への対応
を前提とした設計が必要です。
つまり、
「作って終わりの対策」ではなく「更新し続ける対策」
が求められます。
やってはいけない対策
最後に、今回の改正を踏まえた注意点を整理します。
- 相続直前の不動産取得
- 節税効果だけを目的とした投資
- 制度の隙間を前提としたスキーム
これらは、
今後はリスクの方が大きくなる可能性が高い対策
です。
最終整理:相続対策の本質とは何か
本シリーズを通じて見えてきたのは、相続対策の本質の変化です。
これまでの対策は、
- 評価差を利用する
- 制度を組み合わせる
という側面が強くありました。
しかし今後は、
- 時間を軸に考える
- 実態を伴う資産運用を行う
- 承継まで含めて設計する
という方向に変わっていきます。
結論
これから相続対策を始める人にとって重要なのは、
- 現状を正確に把握すること
- 時間軸を意識すること
- 長期的に資産を設計すること
です。
税制改正によって、短期的な節税は難しくなりましたが、その分、
本質的な資産設計が問われる時代
になりました。
相続対策は一部の専門的なテクニックではなく、
人生全体の資産の持ち方を考えるプロセス
です。
本シリーズが、その第一歩となれば幸いです。
参考
・税のしるべ 2026年3月9日
・令和8年度税制改正大綱

