令和8年度税制改正大綱では、貸付用不動産の評価見直しをはじめとして、資産課税のあり方に大きな方向転換が示されました。
これまでの相続税対策は、評価方法の差や制度の組み合わせを活用することで、課税ベースをコントロールする余地が残されていました。しかし今回の改正は、その余地そのものを縮小する方向に進んでいます。
では、この改正によって誰が有利になり、誰が不利になるのでしょうか。本稿では、「勝つ人・負ける人」という視点から、その構造を整理します。
今回の改正の本質:評価差の縮小
今回の見直しの核心は、相続税評価と市場価格の乖離を縮小する点にあります。
これまでの制度では、
- 路線価評価
- 借家権・貸家建付地評価
- 各種特例
といった仕組みによって、実際の資産価値より低い評価額が認められる場面がありました。
しかし改正後は、
- 短期取得の不動産は時価ベースで評価
- 金融商品化された不動産も時価評価
という方向が明確になります。
つまり、
制度上の「歪み」を利用した節税は通用しにくくなる
という構造です。
勝つ人①:長期視点で資産を設計している人
今回の改正で最も影響を受けにくいのは、短期的な節税ではなく、長期的な資産設計を前提としている人です。
具体的には、
- 早い段階から不動産を取得している
- 相続発生までの時間を見据えている
- 賃貸事業として実態がある
といったケースです。
取得後5年という基準が設けられたことで、
時間を味方につけた設計は依然として有効
であることが明確になりました。
勝つ人②:実需・収益性を重視する人
今回の改正は、「節税目的のみ」の不動産取得を強く抑制するものです。
逆にいえば、
- 安定した賃料収入がある
- 管理・運営が適切に行われている
- 投資として合理性がある
といった不動産は、引き続き有効な資産となります。
これは、
税制が「実態」を重視する方向へシフトしている
ことを意味します。
負ける人①:短期的な節税に依存していた人
最も影響を受けるのは、いわゆる「駆け込み型」の対策を前提としていた人です。
- 相続直前に不動産を購入する
- 建物を新築して評価を下げる
- 借入を組み合わせて圧縮する
といった手法は、今回の改正によって効果が大きく制限されます。
したがって、
短期間で評価を下げるという発想そのものが成立しにくくなる
といえます。
負ける人②:制度の隙間に依存していた人
もう一つの影響は、金融商品化された不動産への対応です。
これまで、
- 信託受益権
- 小口化商品
などを活用することで、実質的には不動産でありながら評価を低く抑える余地がありました。
しかし改正後は、
- 実態に基づく価格
- 事業者の提示価格
などを参照した評価へと移行します。
つまり、
形式を変えても評価は下がらない
という方向に制度が整理されています。
中間層:判断が分かれる人たち
実務上、最も判断が難しいのは中間層です。
例えば、
- これから不動産投資を検討する人
- 相続対策を始めるタイミングにある人
- 既に不動産を一部保有している人
といったケースです。
この層にとって重要なのは、
- 取得タイミング
- 保有期間
- 事業としての継続性
です。
ここを誤ると、
- 想定した節税効果が出ない
- 逆にリスクだけが残る
という結果になりかねません。
税制改正のメッセージ
今回の改正を通じて読み取れるメッセージは明確です。
それは、
「税制を使った最適化」から「実態に基づく課税」へ
という方向転換です。
これまでの資産課税は、
- 評価ルールの差
- 制度の組み合わせ
を前提に設計されていました。
しかし今後は、
- 市場価格に近い評価
- 実質に基づく判断
が重視されます。
これは、
制度のゲーム性を抑え、課税の公平性を高める動き
といえます。
結論
今回の税制改正によって、不動産を活用した相続税対策は大きく変化します。
勝つ人は、
- 長期視点で資産を設計する人
- 実需や収益性を重視する人
負ける人は、
- 短期的な節税に依存する人
- 制度の隙間を前提にした人
です。
この違いは単なるテクニックの差ではなく、
資産に対する向き合い方そのものの違い
です。
今後の資産承継においては、
- 時間
- 実態
- 継続性
を軸にした設計が不可欠となります。
税制改正は終わりではなく、
新しいルールのもとでのスタート
と捉えるべきでしょう。
参考
・税のしるべ 2026年3月9日
・令和8年度税制改正大綱
