前回は、財務会計と税務会計のズレを調整する仕組みとして「税効果会計」をご紹介しました。
今回はその続編として、企業会計の大きなテーマのひとつ 「減損会計」 と税効果会計との関係について解説します。
ニュースでも「減損損失を計上」という言葉を耳にしたことがあると思います。減損と税効果会計は、一見すると別々の話題のようですが、実は密接に関わっています。
減損会計とは?
企業は工場や機械、ビルなどに投資をします。これらの資産は長期間にわたり利益を生み出す前提で取得されます。
しかし、事業環境が悪化したり、競争が激化したりすると、資産が当初想定したように稼げなくなることがあります。
例えば:
- 中国での販売不振で現地工場の稼働率が落ちる
- ITの進化で保有していたソフトウェアの価値が下がる
- 市場縮小により設備の将来キャッシュフローが減る
こうした場合、帳簿に記録されている資産の価値をそのまま残しておくのは不適切です。そこで行うのが 減損会計(減損処理) です。
「資産が将来生み出すキャッシュフローを回収できない」と判断された場合に、帳簿上の価額を下げ、損失として計上します。
減損と税務のズレ
ここでポイントになるのが、財務会計と税務会計の考え方の違いです。
- 財務会計:将来の収益が期待できなくなった時点で、資産を減額(減損損失)として費用計上する。
- 税務会計:実際に売却や廃棄などで損が確定するまで、費用(損金)として認めない。
つまり、財務会計では「今すぐに損失を計上」するのに対し、税務会計では「まだ使っているなら費用にできない」という立場をとるのです。
この違いにより、財務会計上の利益と課税所得の間にズレが生じます。
減損が繰延税金資産に与える影響
財務会計では減損損失を計上すると利益が減りますが、税務会計ではまだ損金として認められません。
すると「将来いつか損金になるはずの額」が発生します。これが 繰延税金資産の計上対象 となります。
しかし注意が必要です。繰延税金資産は「将来、十分な課税所得があれば」資産として認められるものです。もし将来の利益が期待できないと判断されれば、資産としては認められず、取り崩し が必要になります。
つまり、
- 減損が起きる
- 収益力の低下が明らかになる
- 将来の課税所得も見込めない
- → 繰延税金資産を取り崩す
という流れが起きやすいのです。
実例:大王製紙とコニカミノルタ
ここで実際の企業事例を見てみましょう。
大王製紙(2025年3月期)
中国事業の悪化を受けて約20億円の減損損失を計上しました。
同時に、繰延税金資産も約20億円取り崩しています。
これは「中国事業の将来収益が見込めず、将来の課税所得で税負担を軽減できない」と判断されたためです。
コニカミノルタ(2025年3月期)
米子会社などの事業計画を見直した結果、繰延税金資産140億円を取り崩しました。
これは直接的には減損処理そのものではありませんが、事業の将来収益が下振れしたことにより「繰延税金資産の回収可能性が低下した」とみなされたケースです。
いずれも、減損や事業計画見直しと「繰延税金資産の取り崩し」がセットで報じられています。
投資家から見た減損と税効果会計
投資家や株主からすると、「繰延税金資産の取り崩し」は単なる会計上の処理ではなく、企業の将来収益力が弱まったサイン として重要です。
特に次の点に注意が必要です:
- 減損損失を出すということは、将来の利益が減る可能性が高い
- 繰延税金資産の取り崩しは「税負担を軽減できる見込みがなくなった」ことを意味する
- 自己資本比率が悪化することもあり、財務体質への影響が大きい
かつて、りそな銀行が繰延税金資産の計上額を巡って監査法人と対立し、最終的に公的資金注入に至った例もあります。数字の扱いひとつで、経営の安定性まで揺らぎかねないのです。
まとめ
- 減損は「資産の収益力が落ちたときに価値を下げる会計処理」
- 税務会計ではすぐに損金にならないため、税効果会計の対象となる
- しかし、将来の利益見込みがないと「繰延税金資産」は計上できず、取り崩しが必要になる
- 減損と繰延税金資産の取り崩しはセットで起きやすく、企業の将来を示す重要なシグナル
👉参考:日本経済新聞「会計フォローアップ(3)税効果会計 財務と税務のズレ調整」(2025年9月18日付 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
