上場企業の会計不正が報じられると、「あれは大企業の話」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、ガバナンスの本質は企業規模の問題ではありません。
中小企業こそ、経営者の意思決定が企業の命運を左右します。
内部統制が弱い、職務分掌が不十分、社長と経理が近すぎる――こうした構造は中小企業でこそ起きやすい現象です。
本稿では、中小企業における現実的なガバナンス設計の方向性を整理します。
なぜ中小企業にガバナンスが必要なのか
ガバナンスという言葉は、しばしば「規制」や「縛り」と誤解されます。
しかし本質は、
経営者の判断を支える仕組み
であり、
企業を長く続けるための設計
です。
中小企業では、次の特徴が見られます。
・オーナー経営で意思決定が迅速
・経理・総務が少人数
・社長の裁量が広い
・外部チェック機能が弱い
これらは強みでもありますが、裏返せばリスクでもあります。
不正が起きた場合、
信用失墜=資金調達困難=事業継続危機
という連鎖が一気に起こります。
ガバナンスはコストではなく、信用インフラです。
中小企業型ガバナンスの現実的アプローチ
上場企業のように社外取締役を複数置くことは現実的ではありません。
では何ができるのでしょうか。
① 経理機能の「分離」と「見える化」
・現金管理と記帳の分離
・振込承認の二重チェック
・月次試算表の早期作成
これは最低限の基盤です。
経営者が数字を把握していない企業ほどリスクが高まります。
「税理士に任せている」はガバナンスではありません。
② 外部専門家の活用
社外取締役の代替として有効なのが、
・顧問税理士
・会計士
・弁護士
・中小企業診断士
などの外部専門家との定期的対話です。
重要なのは、
報告相手ではなく、対話相手として機能しているか
という点です。
月次報告を受けるだけでは足りません。
経営判断の前段階で相談できる関係性がガバナンスを支えます。
③ 不正発覚時の簡易ルール設計
中小企業でも、最低限以下は決めておくべきです。
・不正疑い発覚時の報告先
・第三者調査の判断基準
・取引先への説明方針
・金融機関への報告フロー
危機は「想定していない」ことが最大のリスクです。
事業承継とガバナンス
中小企業にとって最大のガバナンスイベントは事業承継です。
承継直前に内部管理の弱さが露呈すると、
・株価算定への影響
・金融機関評価の低下
・M&A時のデューデリジェンス問題
が発生します。
承継準備は、単なる株式移転ではなく、
経営の透明化プロセス
でもあります。
資金調達とガバナンスの関係
金融機関や投資家が重視するのは、将来性だけではありません。
・財務数値の信頼性
・内部統制の整備状況
・経営者の説明能力
これらは融資条件に直接影響します。
ガバナンスが弱い企業は、
資金コストが上がります。
これは上場企業だけの話ではありません。
「経営者の孤独」を減らす設計
中小企業の最大のリスクは、
経営者の孤立です。
誰にも相談せず、誰にも否定されず、
判断が固定化していく構造は危険です。
ガバナンスとは、
経営者にブレーキをかける仕組みであると同時に、
経営者を支える仕組みでもあります。
結論
中小企業に必要なのは、大企業型の制度ではありません。
・経理機能の最低限の分離
・外部専門家との実質的対話
・危機対応の事前設計
・承継を見据えた透明化
これらを段階的に整備することが重要です。
ガバナンスは規模ではなく、設計思想の問題です。
企業を「守る」ためではなく、
企業を「続ける」ための仕組み。
それが中小企業におけるガバナンス設計の核心です。
参考
日本経済新聞 2026年2月28日朝刊
「相次ぐ会計不正、識者に聞く」
「発覚備え体制整備を」
「監査、内外で連携必要」

