住宅ローン控除の手続が、ここ数年で静かに大きく変わっています。
証明書方式から調書方式へ――。そして、マイナポータル連携を前提としたデジタル完結型へと移行が進んでいます。
2026年2月、国税庁は住宅取得資金に係る借入金等の年末残高情報のマイナポータル連携に関するFAQを更新しました。今回の改訂では、確定申告後に金融機関が調書方式へ対応した場合の年末調整の扱いなど、実務上つまずきやすい論点が整理されています。
本稿では、中小企業の経理担当者や給与計算実務に関わる方の視点も踏まえ、制度の整理と実務対応のポイントを解説します。
制度の基本整理―証明書方式から調書方式へ
住宅ローン控除の年末残高確認方法は、現在次の2方式が存在しています。
1.証明書方式(従来方式)
金融機関が納税者に年末残高証明書を交付
→ 納税者が税務署へ提出
2.調書方式(新方式)
金融機関が税務署に年末残高調書を提出
→ 税務当局が納税者へ年末残高情報を提供
2024年1月1日以降に居住開始した者について、対応が完了した金融機関から順次調書方式へ移行しています。
金融機関が調書方式に対応していれば、年末残高情報はe-Tax経由で自動連携されるため、紙の証明書管理が不要になります。
今回のFAQ更新の核心論点
今回の追加問答で実務上重要なのは、次のケースです。
ケース
・初年度は証明書方式で確定申告
・その後、金融機関が調書方式に対応
・納税者が金融機関へ住宅ローン控除適用申請書を提出
この場合、年末調整はどうなるのか。
申請書提出「当年」の取扱い
申請書を提出した年分については、
年末調整用の控除証明書に年末残高金額は記載されません。
したがって、その年の年末調整では、
・住宅ローン返済計画表
・借入残高資料
などを基に、会社側で控除額を計算することになります。
ここが実務の落とし穴です。
調書方式に切り替えたからといって、その年から自動反映されるわけではありません。
翌年以降の取扱い
翌年分以降は、
e-Tax交付を希望している場合
11月中旬頃にメッセージボックスへ
年末残高金額等記載済み控除証明書が格納されます。
書面交付希望の場合
原則として従来のまとめ交付のままですが、
申請すれば残高記載済み証明書を受け取ることが可能です。
ただし、書面交付を希望する場合は、
発行を受けたい年の6月頃までに税務署へ申請
が必要とされています。
「どちらを選択したか覚えていない」場合
確定申告時に
・e-Tax交付を選択したのか
・書面交付を選択したのか
覚えていないケースも現実的に多いでしょう。
この場合は、e-Taxのメッセージボックス確認や税務署への問い合わせにより確認可能とされています。
金融機関の対応状況
2026年2月時点で調書方式対応金融機関は127行。
そのうち約8割が信用金庫です。
都市銀行では
・みずほ銀行
ネット銀行では
・住信SBIネット銀行
・PayPay銀行
が対応しています。
借換え時には、金融機関の対応状況を必ず確認すべき局面に入っています。
中小企業実務への影響
給与担当者の立場から見ると、次の点が重要です。
1.申請書提出年は自動反映されない
2.残高証明がないため計算資料の提出依頼が必要
3.e-Tax交付有無の確認が必要
4.借換え時は制度変更有無を確認する
特に「途中で方式が変わる」ケースが実務混乱の原因になります。
年末調整チェックリストに
「調書方式移行の有無確認」
を追加する必要があるでしょう。
デジタル化の本質
今回のFAQ改訂は単なる手続説明ではありません。
住宅ローン控除は、
・マイナポータル
・e-Tax
・金融機関データ連携
という三位一体の行政DXの一環です。
しかし制度移行期は、
「完全自動」にはなりません。
移行年の1年だけは、人が計算する必要がある。
この過渡期をどう乗り切るかが実務力の差になります。
結論
住宅ローン控除の調書方式は、最終的には納税者・企業双方の事務負担軽減につながります。
しかし、
・申請書提出年は自動計算にならない
・6月までの申請期限がある
・方式選択を忘れているケースが多い
という実務的注意点があります。
年末調整担当者は、
「制度は簡素化されるが、過渡期は複雑になる」
という前提で設計する必要があります。
住宅ローン控除は、税額控除制度の中でも影響額が大きい制度です。
デジタル移行期だからこそ、制度理解がそのまま企業のリスク管理になります。
参考
・税のしるべ 2026年2月23日「住宅ローン控除に係るマイナポ連携のFAQを更新」
・国税庁 住宅ローン控除に関するFAQ(マイナポータル連携関連)
・国税庁 年末調整のしかた(令和版)

