都心マンションの短期転売が増加しているという報道は、単なる価格上昇の問題にとどまりません。そこには、住まいが「生活の基盤」から「金融商品」へと性格を変えつつある現実が映っています。
本稿では、住まいの金融商品化という視点から、現在の都市不動産市場の構造を整理します。
住まいはいつから「資産」になったのか
本来、住まいは消費財に近い存在です。衣食と同様に生活を支える基盤であり、そこでの効用は居住によって得られます。
しかし、都市部の不動産は価格上昇局面を通じて「資産」としての側面を強めました。特に都心部では、立地の希少性、再開発、海外マネーの流入などを背景に価格が上昇し、「保有すること自体」が意味を持つようになっています。
短期転売の増加は、その延長線上にあります。取得から数年以内に売却し、価格差益を得る行為は、株式や投資信託の売買と構造的に類似しています。ここでは、住むことよりも「値上がり」が主目的になります。
価格期待が市場を動かす構造
金融商品は、将来価格の期待によって価格が形成されます。不動産も同様に、将来の値上がり期待が現在価格を押し上げます。
都心マンションでは、新築価格の大幅上昇や転売時の高値設定が相場の基準を引き上げています。売り出し価格と成約価格に乖離があっても、高額な提示価格が市場心理に影響を与える点は金融市場と同じです。
期待が強い局面では、実需と投資需要が同方向に動き、価格は加速します。しかし、期待が揺らぐと価格調整が起こります。在庫増加や値下げ物件の増加は、期待の調整過程とも読み取れます。
金融商品化がもたらす三つの変化
住まいの金融商品化は、市場にいくつかの構造変化をもたらします。
第一に、価格変動性の上昇です。居住目的中心の市場では価格は比較的安定しますが、投機的売買が増えると短期的な変動が大きくなります。
第二に、参加者の層の変化です。実需層だけでなく、投資家や海外資金が参入し、価格決定力を持つようになります。
第三に、地域社会への影響です。価格が急騰すると居住者層が変わり、街の性格そのものが変容します。行政が転売規制を検討する背景には、この社会的側面があります。
税制と金融商品化の関係
不動産は株式とは異なり、保有期間によって譲渡所得税率が変わります。短期保有か長期保有かで税負担が異なる設計は、本来、投機抑制を意図したものです。
しかし、価格上昇率が税率差を上回る局面では、抑制効果は限定的になります。金融商品化が進むと、税制もまた市場の一部として組み込まれます。
将来的に、短期転売への追加的課税や取得規制が議論される可能性もあります。住宅政策と金融政策、税制が交差する領域です。
実需層はどう向き合うべきか
住まいが金融商品化する環境下では、購入判断も変わります。
価格上昇期待に乗るのか、居住価値を優先するのか、資産ポートフォリオの一部として考えるのか。いずれも合理的な選択になり得ます。
重要なのは、価格変動リスクを前提に設計することです。借入比率、返済期間、将来の売却可能性を織り込んだ判断が必要になります。住まいを純粋な消費財とみなす時代ではなくなりつつあります。
結論
都心マンションの短期転売増加は、住まいが金融商品化していることの一つの表れです。数量としては限定的でも、価格形成や市場心理への影響は無視できません。
住まいは生活の基盤であると同時に、資産でもあります。その二面性を理解せずに市場を読むことはできません。
今後の都市不動産市場は、実需と投資のバランス、金利環境、税制、規制の動向によって方向性が決まります。住まいの金融商品化という構造変化を前提に、市場を冷静に観察する視点が求められています。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月25日
「マンション短期転売、都心に集中」 会員限定記事
