令和8年度税制改正大綱は、物価高対応、成長促進、税負担の公平、納税環境整備といった複数の政策課題を同時に扱う内容となっています。
しかし、大綱はあくまで年度改正の方針です。中小企業経営にとって本当に重要なのは、単年度の措置よりも中長期的な方向性です。
本稿では、税制改正の背後にある構造的課題を整理し、今後の展望を考察します。
財源問題という根本課題
物価高対策や減税措置が議論される一方で、財源問題は常に存在します。
社会保障費は高齢化の進展に伴い増加傾向にあります。国債残高の累増や金利上昇局面への転換も無視できません。
減税や優遇措置を拡大すれば、いずれどこかで財源調整が必要になります。法人課税、個人課税、社会保険料のいずれか、あるいは複合的な見直しが議論される可能性があります。
中小企業にとっては、短期的な優遇措置よりも、将来の負担増リスクをどう見込むかが重要です。財政制約は、税制設計の前提条件となっています。
消費税の位置付け
消費税は、安定財源として社会保障と強く結び付いています。
物価高局面では、消費税率の引下げやゼロ税率措置が議論されることがあります。しかし、消費税は税収規模が大きく、制度変更は財政に大きな影響を与えます。
また、税率変更は実務面の負担も伴います。価格表示の変更、レジシステムの改修、請求書様式の見直しなど、中小企業にとっては直接的なコストが発生します。
消費税は単なる税率問題ではなく、財政安定と実務運営の両面から慎重な検討が必要な税目です。
社会保障との連動
税制は社会保障制度と切り離せません。
給付付き税額控除の導入や負担調整策は、社会保障の再設計と連動する可能性があります。税と社会保障を一体で捉える動きは今後も強まると考えられます。
中小企業にとっては、法人税だけでなく社会保険料負担も重要な経営要素です。賃上げを促進する政策が進む一方で、保険料負担が増加すれば実質的な人件費負担は重くなります。
税制改正の評価は、社会保険料を含めた総負担の視点で行う必要があります。
公平と成長のバランス
税負担の公平強化と成長促進は、政策上の重要な目標です。
しかし、負担増が過度になれば投資意欲や事業拡大意欲を削ぐ可能性があります。一方で、優遇措置が偏れば再分配機能が弱まります。
中小企業経営は、リスクテイクと持続可能性のバランスの上に成り立っています。税制も同様に、両立を目指す設計が求められます。
今回の大綱は、そのバランスを模索する過程にあるといえます。
今後3年の方向性
今後の税制議論では、次の三点が焦点になると考えられます。
第一に、金融所得課税や高所得者課税の在り方です。再分配機能の強化は継続的テーマとなります。
第二に、消費税と給付付き税額控除の制度設計です。物価高対策と財源確保の両立が課題となります。
第三に、デジタル化を前提とした課税ベースの把握強化です。納税環境整備は継続的に進むでしょう。
中小企業は、単年度改正に一喜一憂するのではなく、制度の方向性を読み取り、長期的な経営計画に反映させる視点が重要です。
結論
令和8年度税制改正大綱は、複数の政策課題を同時に扱う過渡期の改正といえます。
物価高対応や成長支援は必要ですが、財源問題や社会保障との連動を無視することはできません。税制は単なる負担軽減策ではなく、経済構造を形づくる制度です。
中小企業経営にとっては、個別制度の活用とともに、中長期的な税負担構造の変化を見据えることが求められます。
税制改正は毎年行われます。しかし、重要なのは改正の背後にある方向性です。その動きを的確に捉えることが、持続的な経営につながります。
参考
・自由民主党・公明党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月公表)
・税理士界 第1457号(令和8年2月15日発行)特集「令和8年度税制改正大綱を検証」
