金価格が歴史的高値圏にあるなか、中国でユニークな現象が広がっています。
それが、キャラクターと純金を組み合わせた宝飾品、いわゆる「痛金」です。
推し活と実物資産が融合したこの動きは、単なる流行ではなく、若年層の資産観や消費行動の変化を映し出しています。本稿では、中国発「痛金」現象の背景と構造を整理し、日本市場への示唆を考察します。
「痛金」とは何か
「痛金」とは、中国語で「トンジン」と呼ばれ、キャラクターや知的財産(IP)と金製品を組み合わせた宝飾品を指します。
中国では以前から「痛バッグ(トンバオ)」など、好きなキャラクターを強調する文化が広がっていました。そこに、資産価値を持つ金が結びついたのが痛金です。
代表的な事例として、中国の大手宝飾企業がサンリオや日本の人気キャラクター、中国アニメIPとコラボし、純金チャームやブレスレットを展開しています。価格帯は約2万円台からと、若年層でも手の届く設定です。
単なるアクセサリーではなく、
・キャラクターへの愛
・ブランド性
・素材としての金の価値
この三要素を同時に満たす商品設計が特徴です。
若年層が金を持つ時代へ
世界ゴールド協会の調査によれば、中国では若年層の金宝飾品保有率が大きく上昇しています。
かつては中高年層中心だった金需要が、18~24歳層にも広がっています。
背景には以下の要因があります。
① 金価格の上昇
国際金価格は過去数年で大幅に上昇しました。
地政学リスクや米国の金融政策不透明感、中央銀行による金買い増しが価格を押し上げています。
金は「相対的安全資産」として認識されており、中国人民銀行も継続的に金準備を積み増しています。中央銀行の買いが個人投資家の安心感につながっている構図です。
② 推し活の経済合理性
従来のキャラクターグッズは消費財でした。
しかし痛金は、素材価値が下支えします。
「好きだから買う」
「価値が下がりにくいから買う」
この二重構造が若年層に受け入れられています。
いわば、感情と資産性の融合です。
③ デジタル世代の資産観
デジタル資産(暗号資産やNFT)が話題になるなかで、実物資産である金の再評価も進んでいます。
触れられる資産への回帰という側面もあります。
「愛」と「不安」が同時に金を押し上げる
金価格上昇の背景には、世界経済の不安定化があります。
・米国の金融政策への政治的圧力
・地政学リスクの高まり
・通貨への信認揺らぎ
こうしたマクロ要因が、中央銀行や機関投資家の金買いを促しています。
一方で、個人レベルでは「推し活」という感情的動機が金需要を押し上げています。
従来の金需要は、
・投資需要
・宝飾需要
・中央銀行需要
に分類されてきました。
痛金は、このうち「宝飾需要」に新しい意味を与えています。
それは、文化的価値と金融的価値の融合です。
日本市場への示唆
日本はアニメ・ゲームIPの大国です。
もし日本国内で本格的に痛金型商品が広がれば、次のような影響が考えられます。
① 若年層の実物資産保有拡大
投資口座を開設していない層でも、金を保有するきっかけになります。
② IPビジネスの高度化
単なるライセンス収入ではなく、素材価値を伴う高付加価値商品への展開が可能です。
③ 金需要の底堅さ
価格調整局面でも、キャラクター価値が一定の下支えになる可能性があります。
もっとも、留意点もあります。
・純度や重量の透明性
・プレミア価格の妥当性
・流動性の問題
投資として評価する場合は、金含有量と再販価値を冷静に見る必要があります。
「消費」から「半投資」へ
痛金は、完全な投資商品ではありません。
しかし、単なる消費財でもありません。
ここに現代的な消費構造の変化が表れています。
・体験消費
・感情価値
・コミュニティ価値
これらに資産性が加わることで、「半投資型消費」が成立しています。
これは、こどもNISAや若年層の投資教育の広がりとも無関係ではありません。
資産形成への関心が高まるなかで、「価値が残るモノ」を選ぶ意識が強まっていると考えられます。
結論
中国発の「痛金」現象は、単なる流行商品ではありません。
それは、
・世界的不安が金価格を押し上げるマクロ環境
・若年層の推し活文化
・資産性を意識した消費行動
これらが交差した結果です。
金はこれまで、保守的で中高年層の資産という印象がありました。
しかし痛金は、金を「好きの延長線上」に位置づけました。
愛と実利が共存する商品設計は、今後の資産ビジネスにも示唆を与えます。
日本でもIPと実物資産を結びつける動きが広がれば、金需要の構造そのものが変わる可能性があります。
推しと金。
この意外な組み合わせは、資産価値の再定義を象徴しているのかもしれません。
参考
・日本経済新聞 2026年2月21日夕刊
中国発「痛金」キャラ宝飾品 若者も夢中、取引額4倍
・World Gold Council Gold Demand Trends 2025
・中国人民銀行 外貨準備統計 2026年1月

