足もとの日本国債市場では、海外投資家のスタンスが微妙に変化しています。
積極財政を掲げる政権運営、消費税減税の議論、そして日銀の金融政策正常化。これらが同時進行するなかで、「将来の確信度が低下している」という声が出始めました。
本稿では、日本経済新聞のインタビュー記事を参考に、日本国債市場が直面している論点を整理します。
1.「将来の確信度低下」とは何か
米系運用会社の債券運用責任者は、日本国債について「将来の確信度が大幅に低下している」と述べています。
これは、日本国債を売るという意味ではありません。
むしろ「政策の方向性が見えるまでポジションを持ちにくい」という慎重姿勢です。
不確実性の源泉は主に三つです。
- 積極財政の規模と持続性
- 消費税減税の行方
- 日銀の利上げペース
特に海外投資家は、財政政策と金融政策の整合性を重視します。財政拡張がインフレを押し上げるなら、日銀の利上げは前倒しされる可能性があります。市場が織り込んでいる「半年ごとの利上げ」が変わるかどうかが焦点です。
2.消費税減税は国債市場に何をもたらすか
消費税減税が実施されれば、短期的には家計支援となります。しかし、国債市場から見れば論点は別にあります。
投資家が知りたいのは次の点です。
- 債務対GDP比率への影響
- 国債発行計画の変更有無
- 発行年限構成の変化
- 債務の平均残存年数
- 日銀の対応
つまり、「減税する」こと自体よりも、「どう財源を手当てするか」が問われています。
発行増で対応する場合、長期ゾーンの金利上昇圧力が強まる可能性があります。とくに海外投資家が慎重になると、超長期ゾーンのボラティリティが高まりやすくなります。
3.インフレ加速と利上げ前倒しリスク
積極財政が想定以上に需要を刺激すれば、インフレ率は再加速する可能性があります。
その場合、日銀は次のような選択を迫られます。
- 利上げペースの前倒し
- バランスシート縮小の加速
- 長期金利の変動許容幅拡大
市場が想定するパスからずれる場合、イールドカーブは急変しやすくなります。
債券投資家にとって最大のリスクは「方向感の誤認」です。
4.FRB動向との相互作用
米国ではFRB議長交代が控えています。
長期金利は3.75~4.25%のレンジとの見方が示されていますが、利下げ回数については幅があります。
- AIによる生産性向上と雇用減少 → 利下げ加速
- 成長継続・インフレ粘着 → 利下げゼロ
米金利が高止まりすれば、日米金利差を通じて円安圧力が続きます。
円安が輸入物価を押し上げれば、日本のインフレにも影響します。
財政・金融・為替は三位一体で動きます。
5.ベンチマークの変質と投資環境
興味深いのは、米国総合債券指数(US Aggregate)における米国債の比率が約48%まで上昇しているという指摘です。
債務増加によって、ベンチマークそのものが国債中心に肥大化しています。
この構造変化は二つの意味を持ちます。
- 指数連動投資は自動的に国債比率を高める
- 相対的に小さい市場(欧州社債など)が見落とされやすい
グローバル分散の重要性は、単なる地域分散ではなく「資本構造全体の再設計」を意味しています。
6.税制改正と国債市場の接点
消費税減税は一時的措置とされていますが、市場はその「一時性」を疑います。
過去の経験上、時限措置は延長されやすいからです。
もし恒久化が視野に入れば、
- 債務増加
- 格付け圧力
- 長期金利上昇
- 将来世代負担増
といった連鎖が現実味を帯びます。
税制議論は家計目線では負担軽減ですが、債券市場では財政規律のシグナルとして受け止められます。
結論
現在の日本国債市場は「売り」でも「買い」でもなく、「待ち」の局面です。
消費税減税の制度設計、財源手当て、国債発行計画、日銀の対応。
これらが見えるまで、海外投資家はポジションを積み増しにくい状況にあります。
税制と金融市場は切り離せません。
減税の是非を論じる際には、金利・為替・債務管理政策まで視野に入れる必要があります。
財政の明確性こそが、金利の安定をもたらします。
その意味で、今後数カ月は政策の説明力が問われる局面と言えるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年2月21日朝刊
日本国債「将来の確信度低下」 消費税減税の動向注視
米モルガン・スタンレー・インベストメント債券運用チーム統括 ビシャル・カンドゥジャ氏 インタビュー記事

