市場は「無料の健康診断」か ― 非公開化ブームの光と影

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近年、上場企業の非公開化が相次いでいます。MBO(経営陣が参加する買収)や親子上場の解消などを理由に、市場から去る企業は増加傾向にあります。
一方で、上場を維持しながら改革を進め、株価の回復を実現する企業も存在します。

企業は「市場に残るべきか、去るべきか」。
この選択は単なる資本政策ではなく、経営のあり方そのものを問う問題です。

本稿では、非公開化ブームの背景と、その盲点について整理します。


非公開化が増える理由

2025年には東京証券取引所を上場廃止した企業が過去最多を更新しました。背景には、以下のような要因があります。

・短期的な株価変動から解放されたい
・アクティビスト対応の負担
・長期投資を進めやすい環境の整備
・親子上場の解消
・経営の自由度向上

特に、投資ファンドが関与するMBOは増加傾向にあります。市場の圧力から距離を置き、迅速な意思決定を図る狙いがあります。

しかし、「非公開化すれば必ず成長する」とは限りません。ファンド主導のMBOでは、経営者が資金提供者の意向に強く影響を受けるケースもあり、必ずしも経営の自立性が高まるとは言えないとの指摘もあります。


上場の持つ機能 ― 株価という通信簿

上場企業であることの最大の特徴は「株価」という評価軸が常に存在する点です。

株価は、投資家が企業の将来性や戦略をどう評価しているかを日々反映します。
経営者にとっては厳しい現実でもありますが、同時に透明性を伴う「外部モニタリング装置」でもあります。

株価が下がれば、市場は戦略や収益力に疑問を投げかけているというシグナルになります。逆に、改革が評価されれば株価は回復します。

この意味で、市場は企業に対する「無料の健康診断」とも言えます。

・財務体質は健全か
・資本効率は十分か
・将来成長への説得力はあるか

これらを日々、外部からチェックされる環境にあるのが上場企業です。


非公開化の盲点

非公開化の最大のメリットは、短期市場からの圧力を遮断できることです。
しかし、その裏側にはいくつかの盲点があります。

1. 透明性の低下

非公開化すれば、情報開示義務は大きく軽減されます。これは機動的な経営を可能にする一方で、社内の規律や外部からの牽制機能が弱まる可能性もあります。

2. 資本コストの意識の希薄化

市場で株価という形で常に評価される環境では、資本コストへの意識は自然と高まります。
非公開化後は、その緊張感が弱まるリスクがあります。

3. ファンド依存の構造

投資ファンドが関与する場合、短期間での企業価値向上と出口戦略が前提となります。
結果として、再上場や売却を見据えた経営になり、中長期視点とのバランスが難しくなることもあります。


それでも市場は必要か

市場の役割は資金調達だけではありません。

・信用補完
・人材獲得
・ガバナンス強化
・社会的説明責任の明確化

これらは上場企業ならではの機能です。

特に近年は、企業統治改革が進み、資本効率やROE、株主還元政策への説明責任が強く求められています。市場は単なる「短期主義の圧力」ではなく、企業の質を高める装置として再定義されつつあります。

上場を維持しながら改革を進め、株価を回復させた企業の事例は、市場の機能が必ずしも企業の足かせではないことを示しています。


経営者に問われるもの

最終的に問われるのは、
「市場から逃げたいのか、それとも市場を使いこなすのか」という姿勢です。

非公開化は経営の自由度を高める手段になり得ますが、それ自体が成長戦略ではありません。
上場維持もまた、安住を意味しません。

重要なのは、資本市場との関係をどう設計するかという戦略的視点です。

市場は厳しく、時に理不尽です。
しかし同時に、企業に対して毎日、客観的な評価を与えてくれる存在でもあります。

企業が熟慮のうえで残ることを選び、市場を活用しながら成長を目指す姿勢こそが、日本の資本市場を活性化させる鍵になるのではないでしょうか。


参考

日本経済新聞「資本騒乱(5) 市場は無料の健康診断」2026年2月21日 朝刊

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