デジタル弱者と税務行政の公平性問題― DX推進の陰で問われる「実質的公平」 ―

効率化
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

税務行政のデジタル化は加速しています。

マイナンバーカード申告の推進、ID・パスワード方式の新規発行停止、閉庁日対応の縮小など、制度は明確にオンライン前提へと移行しています。

効率化やコスト削減の観点では合理的な流れです。

しかし、その一方で浮上するのが「デジタル弱者」と税務行政の公平性の問題です。

本稿では、制度設計の観点からこの論点を整理します。


1.形式的公平と実質的公平

税務の世界では、「公平」は基本原則です。

同じ所得には同じ税負担。
同じ義務には同じ手続。

これが形式的公平です。

しかし、デジタル化が進むと、

・スマホ操作ができる人
・電子証明書を管理できる人
・オンライン環境が整っている人

と、そうでない人の間に手続き負担の差が生じます。

形式上は平等でも、実質的な負担は同じとはいえません。

ここに問題の本質があります。


2.デジタル化が生む新しい格差

デジタル弱者とは、必ずしも高齢者だけではありません。

・障害を持つ方
・地方で通信環境が不十分な地域
・外国人納税者
・ITリテラシーが低い事業者

など、多様な層が含まれます。

デジタル化が前提になると、

・申告期限直前に操作不能
・暗証番号ロックで送信不可
・電子証明書期限切れ

といった事態が発生します。

制度上は「本人の責任」と整理されますが、構造的要因も否定できません。


3.行政効率と納税者保護のバランス

税務行政DXの目的は、

・事務効率化
・人員不足対応
・コスト削減

にあります。

しかし、税務は国民の財産権に直接影響を与える行政分野です。

単なる利便性の問題ではなく、
手続保障の問題でもあります。

申告できなければ、

・無申告加算税
・延滞税
・調査リスク

が発生します。

デジタル化によって申告機会が実質的に制限されるなら、公平性の議論は避けられません。


4.「選択肢の保障」という視点

公平性を担保するためには、

・オンライン原則
・しかし代替手段の確保

という設計が必要です。

完全デジタル化ではなく、
一定期間の併存措置や支援体制が重要になります。

例えば、

・事前予約制対面支援
・簡素化された紙申告
・暗証番号再設定支援体制

などが考えられます。

重要なのは、
デジタルを強制するのではなく、
移行を支援する姿勢です。


5.実務家の役割

この問題は、行政だけの課題ではありません。

税理士実務においても、

・顧問先のデジタル対応能力の把握
・期限前チェック体制
・マイナカード管理リスクの説明

が求められます。

デジタル弱者を放置すると、

・期限後申告
・納税遅延
・滞納発生

につながります。

デジタル支援は、リスク管理そのものです。


6.今後の制度的課題

税務行政は不可逆的にデジタル化へ進みます。

しかし、制度設計には次の視点が必要です。

・実質的な手続保障
・合理的配慮の具体化
・デジタル教育の充実

単なる効率化ではなく、
包摂性のある税務行政が求められます。


結論

デジタル化は、税務行政の効率を高めます。

しかし、その影で「実質的公平」が揺らぐ可能性があります。

形式的に平等であっても、
手続き能力の差が結果に影響するなら、
公平性の再検討が必要です。

デジタル化は不可避です。

だからこそ、
効率と公平の両立をどう設計するかが、
これからの税務行政の重要課題となります。

税務実務に携わる立場としても、この論点を静かに、しかし継続的に考えていく必要があります。


参考

・税のしるべ 2026年2月16日号
・国税庁 e-Tax関連公表資料

タイトルとURLをコピーしました