税制優遇は本当に成長を生んでいるのか――減税と経済成長の因果を考える

税理士
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研究開発税制や賃上げ促進税制など、企業向けの税制優遇は拡大しています。減税額は1兆円、2兆円規模に達し、政策手段としての存在感は大きくなっています。

では、これらの税制優遇は本当に経済成長を生み出しているのでしょうか。

減税額の大きさと成長率の上昇は、必ずしも直結しません。本稿では、税制優遇と成長の関係を、因果関係の視点から整理します。


税制優遇の目的は「行動誘導」

租税特別措置の本質は、特定の行動を促すことにあります。

  • 研究開発を増やす
  • 設備投資を促す
  • 賃金を引き上げる
  • 脱炭素やDXを推進する

政策の狙いは明確です。企業が将来に向けた投資を行えば、生産性が高まり、結果として経済成長につながるという構図です。

しかし、この構図にはいくつかの前提があります。


前提1 本当に投資を「増やした」のか

税制優遇が成長に寄与するためには、制度がなければ行われなかった投資が、新たに生まれている必要があります。

もし企業がもともと予定していた投資に対して、後から減税が適用されているだけであれば、行動の変化は限定的です。

研究開発税制についても、

  • 減税があったから投資したのか
  • 投資は既定路線で、減税は結果として適用されたのか

この違いは重要です。

経済学では「追加性」が問われます。税制が追加的な投資を生んでいるかどうかが、成長との因果を左右します。


前提2 投資が生産性向上につながるか

仮に投資が増えたとしても、それが生産性向上や新市場の創出につながるかは別問題です。

研究開発投資の成果は不確実であり、成功と失敗が混在します。賃上げも、人材確保や消費拡大につながる可能性はありますが、企業の収益構造が改善しなければ持続しません。

減税は投資の「量」に影響を与えますが、「質」を保証するわけではありません。


前提3 恩恵は広がっているか

成長とは、特定企業の利益拡大だけでなく、経済全体の底上げを意味します。

税制優遇の恩恵が、

  • 一部の大企業に集中していないか
  • 特定分野に偏っていないか
  • 中小企業や地域経済に波及しているか

これらの視点も重要です。

もし優遇が既存の競争優位企業をさらに強くするだけであれば、マクロ経済全体の成長への波及は限定的かもしれません。


成長との関係は「間接的」

税制優遇は、直接的にGDPを押し上げる装置ではありません。

減税

投資増加

生産性向上

所得増加

消費・投資拡大

成長

このような段階的な経路を経ます。各段階で効果が薄れれば、最終的な成長への影響も小さくなります。

つまり、税制優遇は成長の「必要条件」になり得ても、「十分条件」ではありません。


財政との関係

税制優遇は、同時に税収を減少させます。

減税による税収減が将来の成長で回収できるのか、それとも財政赤字を拡大させるだけなのか。この評価も重要です。

もし成長効果が限定的であれば、税制優遇は財政負担だけを残す可能性があります。

政策効果の検証なしに延長や拡充が続けば、そのリスクは高まります。


中小企業の視点から見る成長

中小企業にとっての成長は、必ずしもマクロ指標では測れません。

  • 新規顧客の獲得
  • 利益率の改善
  • 人材定着
  • 技術力の向上

税制優遇がこうした具体的な成果につながっているかどうかが重要です。

制度を活用した企業でも、競争力が高まらなければ、持続的成長には結びつきません。


結論

税制優遇は、投資や賃上げを促す政策手段として一定の役割を果たします。しかし、それが経済成長を生むかどうかは、

  • 追加的な投資を生んでいるか
  • 生産性向上につながっているか
  • 経済全体に波及しているか

これらの条件に依存します。

減税額の大きさは、成長の保証ではありません。税制優遇は成長の可能性を広げる一手段にすぎず、その効果は検証と見直しを通じて確認されるべきです。

成長政策としての税制優遇を議論する際には、規模ではなく因果関係に目を向ける必要があります。


参考

・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「研究開発減税1兆円超え 24年度の『租特』適用」
・財務省 租税特別措置の適用実態調査結果
・税制改正大綱(法人課税関係)

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