中小企業支援策は数多く存在します。
補助金、助成金、租税特別措置、低利融資、保証制度など、国や自治体の制度は毎年のように改正され、新設・延長が繰り返されます。
経営者の中には、「使える制度はすべて使うべきだ」と考える方もいれば、「制度に振り回されるべきではない」と距離を置く方もいます。
では、中小企業は制度を追うべきなのでしょうか。それとも、自社の戦略を優先すべきなのでしょうか。本稿では、この問いを整理します。
制度を追う経営のメリットと限界
制度を積極的に活用する経営には、明確なメリットがあります。
- 設備投資や研究開発の負担を軽減できる
- 資金繰りの安定につながる
- 競合より有利な投資が可能になる
特に利益水準が限られる中小企業にとって、数百万円、数千万円規模の支援は無視できません。
一方で、制度を追うことが目的化すると、別の問題が生じます。
- 補助金ありきの事業計画になる
- 採択されなければ動けない体質になる
- 制度変更に振り回される
制度は政策目的に沿って設計されています。自社の強みや市場戦略とは必ずしも一致しません。制度中心の発想になると、経営の軸が外部環境に依存しやすくなります。
戦略を磨く経営の強み
一方で、戦略を軸に置く経営はどうでしょうか。
戦略とは、自社がどの市場で、どの価値を提供し、どの強みで勝つのかを定めることです。
戦略が明確であれば、
- 制度があれば活用する
- 制度がなくても実行する
- 制度に合わなければ使わない
という判断ができます。
制度は「追うもの」ではなく、「合致すれば使うもの」になります。経営の主語が常に自社にある状態です。
制度依存がもたらすリスク
制度を中心に据えた経営には、次のようなリスクがあります。
1 短期志向に偏る
補助金は単年度予算が多く、期限付きです。結果として、短期的に成果を出しやすいテーマに偏る可能性があります。
2 経営資源が分散する
制度ごとに申請要件や管理方法が異なります。制度対応に人的資源を取られ、本来の事業改善が後回しになる場合もあります。
3 環境変化に弱い
政策は政治・財政状況によって変わります。制度縮小や廃止が起きると、前提としていた収支計画が崩れることもあります。
それでも制度を無視すべきではない理由
ただし、制度を軽視することも適切ではありません。
税制や補助金は、国の政策メッセージでもあります。どの分野に投資を促したいのか、どの行動を後押ししたいのかが示されています。
例えば、
- 研究開発税制の拡充
- 賃上げ促進税制の設計変更
- DX・脱炭素関連補助金の重点化
これらは、政策の方向性を映しています。自社の戦略がその方向と重なる場合、制度活用は合理的です。
重要なのは、制度に合わせて戦略を作るのではなく、戦略に合う制度を選ぶ姿勢です。
実務的な向き合い方
中小企業が現実的にとるべきスタンスは、次の三段階に整理できます。
第一段階 戦略を明確にする
自社の強み、市場、顧客、価格戦略、投資計画を整理します。制度の有無にかかわらず、何を目指すのかを言語化します。
第二段階 制度との適合性を確認する
戦略に沿った投資や取り組みが、制度要件に合致するかを検討します。合えば活用、合わなければ無理に合わせません。
第三段階 制度の影響を織り込む
制度は期限付きであることが多いため、支援がなくなっても成立する収支構造かどうかを確認します。
「制度を使う企業」と「制度に使われる企業」の違い
同じ制度を活用していても、企業の姿勢によって結果は変わります。
制度を使う企業は、
- 自社戦略が先にある
- 制度は補完的手段
- 制度終了後も持続可能
制度に使われる企業は、
- 制度が起点
- 採択が目的化
- 終了と同時に失速
違いは、制度活用そのものではなく、経営の軸の置き方にあります。
結論
中小企業は制度を無視すべきでも、制度を追いかけるべきでもありません。
戦略を磨くことが前提であり、その戦略に合致する制度を選択的に活用することが現実的な姿勢です。
制度は手段であり、経営の目的ではありません。制度を使うかどうかの判断基準を、自社の戦略に置き続けることが、持続可能な成長につながります。
支援策が多様化する時代だからこそ、問われているのは制度対応力ではなく、戦略の明確さです。
参考
・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「研究開発減税1兆円超え 24年度の『租特』適用」
・中小企業庁 各種支援施策資料
・財務省 租税特別措置の適用実態調査結果
