入院が決まったとき、治療内容と同じくらい気になるのが医療費の総額です。
高額療養費制度があるから安心、と言われますが、実務では「入院が月をまたぐかどうか」で自己負担額が大きく変わることがあります。
制度は月単位で設計されているためです。本稿では、入院が月をまたぐ場合の負担の変化を具体例で整理します。
高額療養費は「月単位」で計算される
高額療養費制度は、1か月(暦月)ごとに自己負担限度額を判定します。
ここでいう1か月とは、1日から末日までの暦月です。
例えば、3月20日から4月10日まで入院した場合、
・3月分(3月20日~31日)
・4月分(4月1日~10日)
と、2か月に分けて計算されます。
この点が実務上の重要ポイントです。
実例① 月内で完結する入院
70歳未満・一般区分の方が、同月内に手術入院を行い、保険診療分の自己負担が50万円になったとします。
自己負担限度額が約8万円台+1%であれば、
実質負担はおおむね9万円前後で収まります。
つまり、50万円支払っても、最終的には約9万円程度に圧縮されます。
実例② 入院が月をまたぐ場合
同じ治療内容・同じ総医療費50万円でも、月をまたいだ場合はどうなるでしょうか。
例えば、
・3月分自己負担 25万円
・4月分自己負担 25万円
となった場合、それぞれの月ごとに自己負担限度額が適用されます。
3月分で約8万円台、
4月分でも約8万円台。
結果として、
約9万円 × 2か月 = 約18万円
が最終負担となります。
同じ50万円でも、月をまたぐだけで負担はほぼ倍になる可能性があります。
なぜこのような差が生じるのか
制度が「家計の急激な負担増を月単位で緩和する」設計になっているためです。
年間でならせば合理的に見えても、暦月で区切られるため、月をまたぐと限度額が二重に適用される形になります。
この点は制度上の特徴であり、例外はありません。
多数回該当との関係
過去12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は多数回該当として限度額が引き下げられます。
長期入院や継続治療の場合、この緩和措置が適用されると負担は軽減されます。
ただし、初回や短期入院では多数回該当は使えません。
70歳以上の場合
70歳以上では、外来と入院で上限の扱いが異なりますが、基本的に月単位という原則は同じです。
特に外来診療のみで上限に達している場合、入院分の扱いに注意が必要です。
月またぎを調整できるのか
実務で時折質問を受けるのが、「入院日を少しずらせば負担を抑えられるのではないか」という点です。
計画入院であれば、理論上は月内に収めることで負担を抑えられる可能性はあります。
ただし、医療上の判断が最優先であり、費用面だけで調整できるとは限りません。
また、入院が短期でも、術前検査や術後通院が別月に発生すれば、結果として月をまたぐ形になります。
医療費控除との関係
月をまたいで高額療養費が複数回適用された場合でも、医療費控除は年単位で計算します。
その年の実際の自己負担額を合算し、そこから10万円を差し引いた部分が所得控除の対象になります。
月単位と年単位という計算単位の違いを整理しておくことが重要です。
結論
入院が月をまたぐと、自己負担限度額が月ごとに適用されるため、実質負担額が増える可能性があります。
・高額療養費は暦月単位で計算
・月をまたぐと限度額が二重に適用
・多数回該当で軽減される場合あり
・医療費控除は年単位で計算
制度を理解しておくことで、資金準備や家計設計の見通しが立てやすくなります。
医療は予測できない部分も多いですが、制度の構造を知っておくことは、家計防衛の一つの手段になります。
参考
厚生労働省
高額療養費制度に関する公表資料
日本経済新聞 2026年2月18日夕刊
マネー相談 黄金堂パーラー 医療費控除(下)対象となる費用
