ふるさと納税に「自動制御装置」を組み込むという発想

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ふるさと納税は、本来は「寄付」という行為を通じて地域を応援する制度として始まりました。

しかし制度開始から十数年が経過し、いまや自治体間の財源獲得競争の様相を強めています。
制度の趣旨と実態との間に、静かなズレが生じているのではないか――そんな問題提起がなされています。

本稿では、ふるさと納税を巡る財政構造の歪みと、「自動制御装置」という改革案について整理します。


1.普通交付税とふるさと納税の関係

地方財政の基盤には、普通交付税制度があります。

普通交付税は、

・基準財政需要額(行政サービスに必要な標準的経費)
・基準財政収入額(標準的に見込まれる税収等)

を比較し、不足分を国が補てんする仕組みです。

2023年度には、全国1741市区町村のうち1642団体が交付団体となっています。
多くの自治体が交付税に依存している構造がわかります。

ここで重要なのは、ふるさと納税による寄付金は基準財政収入額に算入されないという点です。

つまり、

・地方税収
・普通交付税
・ふるさと納税

を同時に受け取ることができる構造になっています。

結果として、ふるさと納税を多く集めた自治体は、交付税が減ることなく財源が純増します。


2.利用者・自治体・代行企業の「三方よし」

利用者側にとっての魅力も強力です。

通常の寄付は所得控除や税額控除の対象ですが、ふるさと納税は、

・寄付額のほぼ全額が控除対象
・返礼品は寄付額の30%以内
・クレジットカードポイントも付与される場合あり

という極めて高いインセンティブ設計になっています。

自治体は財源を獲得でき、
利用者は実質的な負担が小さく、
代行企業は手数料収入を得る。

三者の利害が一致する構造です。

その結果、制度は拡大を続けています。


3.受益と負担の分離という問題

しかし、制度の拡大は「受益と負担の関係」を歪めています。

2023年度には、

・148市町村でふるさと納税受入額が普通交付税額を上回り
・84市町村で地方税収を上回る

という状況が生じました。

一方で、都市部の自治体では個人住民税の流出が深刻化しています。

本来、住民税は居住地の行政サービスを支える財源です。
しかし、負担は都市部で、受益は他自治体へという構造が広がっています。

これは、税制としての整合性という観点から、再検討が必要な局面に入っていると言えるでしょう。


4.「自動制御装置」という提案

ここで提案されているのが、受入額の一定割合を基準財政収入額に算入するという考え方です。

もしこれが実施されれば、

・ふるさと納税が増えれば交付税が一部減る
・過度な獲得競争にはブレーキがかかる
・適正規模での活用へと収れんする

といった効果が期待できます。

いわば、制度内部に「自動制御装置」を組み込む発想です。

制度を廃止するのではなく、
インセンティブ構造を調整することで過熱を抑える。

これは財政制度設計として極めて現実的なアプローチです。


5.制度は理念に戻れるか

ふるさと納税は、

・地方創生
・地域応援
・寄付文化の醸成

といった理念のもとで導入されました。

しかし現在は、
「いかに得をするか」という消費行動の側面が強まっています。

制度の持続可能性を考えるなら、

・受益と負担のバランス
・地方間財政調整との整合性
・税制としての公平性

を改めて検証する段階に来ているのではないでしょうか。


結論

ふるさと納税は、完全に否定すべき制度ではありません。

しかし、制度が拡大し過ぎたときには、
その内部にブレーキを組み込む設計が必要になります。

受入額の一部を基準財政収入額に算入するという提案は、
制度を存続させつつ、過度な財源偏在を抑える「穏当な改正案」と言えます。

税制はインセンティブの設計そのものです。

ふるさと納税を「競争装置」のままにするのか、
それとも「自律調整装置」を持つ制度へと進化させるのか。

いま、静かな制度設計の見直しが求められています。


参考

日本経済新聞「私見卓見 ふるさと納税に自動制御装置を」2026年2月18日 朝刊
伊藤敏安(周南公立大学教授)

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