企業経営において税務は避けて通れない領域です。
しかし、すべてを社長自身が理解する必要があるわけではありません。
一方で、税務を「専門家に任せているから大丈夫」と完全に委ねてしまうことにもリスクがあります。
中小企業において、社長は税務をどこまで理解しておくべきなのでしょうか。本稿では、その境界線を整理します。
なぜ社長に税務理解が必要なのか
中小企業では、経営と所有が一致しているケースが多く、社長の判断がそのまま税務リスクや資金繰りに直結します。
例えば、
・設備投資のタイミング
・役員報酬の設定
・法人と個人の資金移動
・M&Aや事業承継の判断
これらはすべて税務と強く結びついています。
税務は単なる申告業務ではなく、経営判断の結果として生じる「数字の帰結」です。したがって、社長が最低限の構造を理解していない場合、意思決定の精度が下がります。
社長が理解すべき3つのレベル
① 制度の仕組みを理解するレベル
すべての条文を知る必要はありませんが、次の構造は押さえておくべきです。
・法人税は「利益」に課税される
・消費税は「預かり金」的性格を持つ
・役員報酬は原則として期中変更できない
・赤字でも税金が発生する場合がある
ここを誤解すると、資金繰りに直接影響します。
② 意思決定と税務が連動することを理解するレベル
例えば、
・利益を出せば税金は増える
・報酬を上げれば法人税は下がるが個人税は増える
・設備投資は節税になるがキャッシュは減る
税務は「得か損か」ではなく、「キャッシュとリスクの配分」です。
ここを理解していれば、専門家との議論の質が変わります。
③ リスクの所在を理解するレベル
税務調査の対象になるのは法人ですが、最終的な責任は代表者に及ぶ可能性があります。
・仮装・隠蔽があれば重加算税
・役員貸付金の放置
・私的経費の混入
これらは専門家任せでは防ぎきれません。
社長自身が「線引き」を理解している必要があります。
理解しなくてよい領域
一方で、社長が理解しなくてもよい部分もあります。
・条文の細かな解釈
・通達レベルの適用判断
・申告書作成の技術的処理
・税務調査での専門的応酬
ここは専門家の領域です。
社長がすべてを抱えると、本来の経営に集中できなくなります。
税務を「節税手段」とだけ捉えるリスク
中小企業では、税務を「いかに税金を減らすか」という視点で語られがちです。
しかし、過度な節税志向は、
・信用力の低下
・金融機関評価の悪化
・将来の事業承継コスト増大
といった副作用を生むことがあります。
税務は短期的な税額最小化ではなく、長期的な企業価値最大化の視点で考えるべきです。
中小企業における現実的な到達点
中小企業の社長が目指すべき税務理解の到達点は、次の水準です。
・自社の実効税率を把握している
・税引後利益とキャッシュフローの違いを説明できる
・投資判断に税務が影響することを理解している
・専門家に具体的な質問ができる
ここまで理解できれば、経営判断に十分活かせます。
結論
社長が税務を完全に理解する必要はありません。
しかし、「知らなくてよい」と切り離すこともできません。
税務は経営の結果として発生するものであり、意思決定と不可分です。
中小企業において社長が持つべき税務リテラシーとは、
条文知識ではなく、構造理解とリスク感覚です。
税務を専門家に任せつつも、経営の言語として扱える状態にあること。
そこが、社長に求められる現実的な水準といえます。
参考
・日本経済新聞 2026年2月17日朝刊
「税務実務経験は3割弱 PwCのCFO意識調査」
・PwCジャパングループ CFO意識調査(2025年9~10月実施)
