企業におけるAI活用は、いま明らかに次の段階へと進んでいます。
これまでの生成AIは、文章作成や要約、検索補助などを担う「高度な道具」として活用されてきました。しかし現在注目されているAIエージェントは、単なる補助ツールではありません。目標を与えると、自ら計画を立て、必要な情報を収集し、複数のシステムを横断しながら業務を完遂する「実行主体」です。
本稿では、AIエージェントが企業経営にもたらす構造変化と、これから問われるマネジメントの在り方について整理します。
AIエージェントは何が違うのか
生成AIが「考える補助」であるのに対し、AIエージェントは「動く存在」です。
例えば、問い合わせ対応、経理処理、修理手配など、反復的でありながら例外処理が多い業務では、人が複数のシステムを行き来しながら判断してきました。AIエージェントは、この「つなぎ役」の部分を代替します。
欧州の通信系企業では、修理関連の十数の情報システムをAIエージェントが束ね、現場到着前に障害履歴や推奨手順、必要部材候補まで提示する仕組みを構築しました。結果として解決時間を大幅に短縮し、コスト削減と顧客満足度向上を同時に実現しています。
国内でも、富士通 が「エージェントフォース」を活用し、従来は複数回のやり取りが必要だった案件対応を圧縮し、一次回答の質とスピードを高めた事例が紹介されています。
重要なのは、AIエージェントが「業務の一部」ではなく、「業務プロセスそのもの」を再設計する可能性を持つ点にあります。
「AIエージェント資本」という考え方
AIエージェントは、物的資本・人的資本・組織資本に次ぐ第四の資本と捉えることができます。
なぜなら、次の特徴を持つからです。
- 複製可能である
- スケール可能である
- 使い方次第で生産性も品質も変わる
- 継続的に学習し進化する
これは従来のIT投資とは異なります。単なるシステム導入ではなく、「経営資源の蓄積」としての意味を持ちます。
今後、投資家が企業の成長力を測る際、「AIエージェント資本の蓄積度合い」が新しい評価軸になる可能性があります。
導入よりも問われる「マネジメント力」
しかし、AIエージェントは導入すれば成果が出るものではありません。
問われるのは経営の指揮力です。
具体的には、次の5点が整っているかどうかが分水嶺になります。
1. 業務統合の具体性
どのプロセスに組み込み、何がどれだけ減ったのかが明確か。
2. ガバナンス設計
誰が最終責任を負うのか。
自律性の範囲はどこまでか。
ログ監査・承認プロセスは組み込まれているか。
3. 人材育成
現場が使いこなせる仕組みがあるか。
改善サイクルを回せる体制か。
4. 成果指標
時間短縮、品質向上、収益改善など、定量的に測定しているか。
5. スケール計画
一部門の成功で終わらず、横展開できる設計になっているか。
AIエージェントは「誤りが起きる」ことを前提に設計する必要があります。
検証・承認・監査の仕組みを組み込み、人とAIを編成しながら改善を回すことが不可欠です。
日本企業の課題
調査によれば、日本企業におけるAIの日常利用率は世界平均より低い水準にあります。特に、エージェントを業務フローに統合できている割合は小さいとされています。
背景には、経営層自身の活用経験の不足があると考えられます。トップが日常的にAIを使っていなければ、現場浸透は進みにくいのが現実です。
これは単なるIT投資の問題ではなく、「経営の理解度」の問題です。
中小企業・専門職への示唆
AIエージェントは大企業だけの話ではありません。
むしろ、少人数で多業務を回している中小企業や専門職にとってこそ、効果は大きい可能性があります。
例えば、
- 会計ソフトと銀行データの連携
- 請求・督促の自動化
- 顧客問い合わせ対応の一次処理
- 契約書チェックの初期レビュー
これらは、AIエージェントによって再設計可能な領域です。
少人数であればあるほど、「何台のAIを持てるか」という発想が経営効率を左右します。
結論
AIエージェントは、単なる業務効率化ツールではありません。
それは「資本」です。
複製可能で、拡張可能で、経営の意思決定によって価値が変わる資本です。
今後問われるのは、「AIを導入しているか」ではなく、
- 業務に統合されているか
- ガバナンスが設計されているか
- 現場が使いこなしているか
- 成果が測定されているか
- 横展開できるか
という総合的な経営力です。
AIエージェントを味方につけられるかどうか。
それは、技術力の差ではなく、経営の識見と覚悟の差で決まる時代に入っています。
参考
日本経済新聞「AIエージェントの衝撃」大機小機、2026年2月17日朝刊
富士通株式会社 公開事例資料(エージェントフォース関連発表資料)

