円安時代の資金繰り管理実践編――利益よりもキャッシュを守る

経営

円安が長期化すると、まず損益計算書が傷みます。
しかし企業を倒すのは赤字そのものではなく、資金不足です。

原材料やエネルギーの仕入価格は上昇し、在庫の仕入額も増える。
一方で売価への転嫁は遅れ、回収サイトは変わらない。

その結果、帳簿上の利益以上に資金繰りが悪化します。

本稿では、円安時代に中小企業が実行すべき資金繰り管理の具体策を整理します。


1.まずは「為替感応度」を見える化する

実践の第一歩は、為替変動が資金に与える影響を数値化することです。

例えば、

  • 1円円安になると仕入原価はいくら増えるのか
  • 1ドル=150円と160円で月間資金流出はどれだけ変わるか
  • 在庫評価額はいくら膨らむか

この試算を行うだけで、経営判断の精度は大きく変わります。

為替は予測できませんが、影響額は計算できます。


2.運転資金の圧迫要因を分解する

円安局面では、運転資金が膨らみます。

主な要因は三つです。

(1)仕入単価上昇

同じ数量でも支払額が増えます。

(2)在庫評価額増加

円建て金額が増え、資金拘束が拡大します。

(3)売掛金の増加

販売単価上昇により売掛金残高も増加します。

利益が出ていても、売上拡大と同時に資金が不足する「黒字倒産型」のリスクが高まります。


3.在庫回転率を最優先指標にする

円安時代に最も重要な経営指標の一つは在庫回転率です。

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫

回転率が低下すると、資金が倉庫に眠ります。

対策としては、

  • 発注ロットの見直し
  • 売れ筋への集中
  • 滞留在庫の早期処分

在庫を減らすことは、借入を減らすことと同義です。


4.為替予約の実務的活用

為替予約は投機ではなく、資金安定のための保険です。

実務上のポイントは、

  • 仕入予定額の一定割合のみ予約する
  • 月次ベースで分散予約する
  • 為替変動幅に応じて段階的に追加する

100%固定するのではなく、弾力的に運用することが現実的です。

重要なのは「読みに勝つ」ことではなく、「急変に耐える」ことです。


5.借入構造の見直し

金利正常化局面では、借入条件の見直しが不可欠です。

確認すべき点は、

  • 固定金利か変動金利か
  • 借入期間の長短
  • 返済猶予の有無

可能であれば、

  • 長期資金で短期資金を賄わない
  • 手元流動性を厚めに確保する

ことが望まれます。

円安下では「余裕資金」は過剰ではありません。
安全余白です。


6.価格改定と資金繰りは同時に設計する

価格改定を行う場合、重要なのはタイミングです。

  • 値上げ前に在庫を仕入れる
  • 改定前の駆け込み需要を資金計画に反映する
  • 値上げ後の販売数量減少を想定する

価格戦略と資金計画を切り離してはいけません。


7.月次資金繰り表の高度化

実践的には、12か月先までの資金繰り表を常時更新します。

最低限、以下を管理します。

  • 月次売上予測
  • 仕入支払予定
  • 借入返済予定
  • 税金納付予定

さらに、

  • 為替前提を複数シナリオで試算
  • 売上減少シナリオも想定

することで、危機は早期に察知できます。


8.経営者のマインドセット

円安時代の資金繰り管理で最も重要なのは、利益志向からキャッシュ志向への転換です。

売上拡大よりも、
利益率よりも、
現金残高を守る。

円安は長期化する可能性があります。
一時的な追い風や逆風ではなく、構造環境と捉えるべきです。


結論

円安時代の資金繰り管理は、防御ではなく設計の問題です。

  • 為替感応度を見える化する
  • 在庫を最適化する
  • 為替リスクを分散する
  • 借入構造を整える
  • 月次資金繰りを高度化する

企業を守るのは、売上規模ではありません。
資金循環の安定性です。

円安は外部環境ですが、資金管理は内部統制です。

不確実な時代ほど、キャッシュフローの設計力が企業の存続力を決めます。


参考

・日本経済新聞「漂流する円1 もはや安全通貨ではない」2026年2月17日朝刊
・中小企業庁「価格転嫁対策関連資料」2025年公表
・日本銀行 金融政策決定会合資料 2026年1月公表

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