原材料やエネルギー価格の上昇が続くなか、価格転嫁の成否が企業の命運を左右する局面が続いています。
「価格転嫁ができない企業は淘汰されるのか」。
刺激的な問いですが、実際に起きているのは単純な淘汰ではなく、静かな選別です。本稿では、その構造を整理します。
1.価格転嫁ができないと何が起きるか
コスト上昇を価格に反映できない場合、企業の損益計算書には次のような変化が生じます。
円安 → 原価上昇 → 売価据え置き → 粗利率低下 → 営業利益圧迫
利益率の低下は、直ちに倒産を意味するわけではありません。しかし、
- 設備投資の抑制
- 人材投資の縮小
- 賃上げ余力の喪失
といった「体力低下」が始まります。
問題は急死ではなく、慢性的な衰弱です。
2.淘汰の正体は「資金繰り」
企業が市場から退出する直接要因の多くは、赤字そのものではなく資金繰りの悪化です。
価格転嫁ができない企業では、
- 在庫評価損の拡大
- 借入依存度の上昇
- 金利負担増
が重なり、資金循環が不安定になります。
特に金融政策が正常化局面に入ると、金利上昇が追い打ちをかけます。価格転嫁が進まないまま金利負担が増えれば、資金繰りの継続性は急速に揺らぎます。
淘汰は価格ではなく、キャッシュフローから始まります。
3.しかし、全てが消えるわけではない
価格転嫁が難しい企業でも、必ずしも退出するとは限りません。
以下のような対応を取る企業は、生き残る可能性があります。
- 付加価値の再設計
- 商品ラインの縮小と集中
- 取引先構成の見直し
- コスト構造の抜本的改革
価格を上げられないなら、価値を上げる。
もしくは、原価構造そのものを変える。
淘汰されるか否かは、「価格転嫁の可否」ではなく「経営転換の速度」に依存します。
4.ゾンビ化というもう一つのリスク
一方で、金融支援や公的支援により市場から退出せず存続する企業もあります。
この場合、
- 利益率は低位安定
- 投資は停滞
- 生産性は改善せず
という状態が続きます。
淘汰されない代わりに、成長もしない。
いわゆる「ゾンビ企業化」です。
経済全体で見ると、生産性向上を阻害する要因にもなります。
5.大企業との分断
円安局面では、
- 海外展開企業は増益
- 国内依存企業は減益
という構図が生じやすくなります。
価格転嫁が難しい中小企業が淘汰されれば、産業の集中が進み、地域経済への影響も避けられません。
この問題は個別企業の経営問題であると同時に、産業構造の再編問題でもあります。
6.最終的に選別されるのは何か
結論から言えば、淘汰されるのは「価格転嫁できない企業」そのものではありません。
選別されるのは、
- 付加価値を創出できない企業
- 交渉力を持てない企業
- コスト構造を変えられない企業
です。
価格転嫁は結果であって原因ではありません。
顧客にとって不可欠な存在であれば、価格は最終的に受け入れられます。
代替可能であれば、価格は通りません。
市場は常に、価値を基準に企業を選別します。
結論
価格転嫁ができない企業は、短期的には持ちこたえることもあります。しかし、構造転換ができなければ、時間をかけて体力を失います。
円安は、その選別プロセスを加速させる要因の一つです。
問われているのは、
価格を上げられるかどうかではなく、
価格を上げても選ばれる存在かどうかです。
為替環境は外部要因ですが、付加価値の創出は内部要因です。
円安時代の淘汰は、静かに、しかし確実に進みます。企業に求められるのは、防御ではなく構造転換の覚悟と言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「漂流する円1 もはや安全通貨ではない」2026年2月17日朝刊
・中小企業庁「価格転嫁対策に関する資料」2025年公表
・東京商工リサーチ 為替影響調査 2025年12月公表
