金価格の高騰は何を映すのか――通貨不信と分散化時代の国際秩序

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金価格が歴史的な高値圏にあります。

2025年に大幅上昇し、国際価格は1トロイオンス5500ドルを超える水準に達しました。短期的には乱高下を繰り返していますが、各国の中央銀行による金購入や、投資家の分散需要はむしろ強まっています。

金の「輝き」は、単なる投機熱の表れなのでしょうか。それとも、より深い構造変化の兆しなのでしょうか。本稿では、最近の論考や各国中銀・運用機関幹部の発言を手がかりに、通貨秩序の変化と日本への示唆を整理します。


ドルの信認に入った「ひび」

長らく米ドルは、事実上の基軸通貨として国際金融システムの中心にあり続けてきました。

その背景には、
・米国の圧倒的な経済規模
・流動性が高く安全とされる米国債市場
・中央銀行の独立性
・国際決済ネットワークにおけるドルの優位性
といった複合的な要因がありました。

しかし近年、いくつかの点で市場の見方に変化が生じています。

第一に、政策の予見可能性への疑念です。高関税政策や制裁の多用は、ドル資産へのアクセスが政治的に左右されるリスクを意識させました。

第二に、米国債市場や財政運営への不安です。債務上限問題の混乱や財政赤字の拡大は、長期的な通貨価値への懸念を生みます。

第三に、中央銀行の独立性に対する市場の警戒感です。金融政策や人事への政治的影響が取り沙汰されることで、「通貨価値を守る最後の砦」への信頼が揺らぎます。

こうした積み重ねが、ドル指数の低下と金価格の上昇という形で表れていると解釈する見方があります。


中央銀行が進める「外貨準備の分散」

とりわけ注目すべきは、新興国を中心とする中央銀行の動きです。

たとえば、アフリカの国々では、外貨準備に占める金の比率を引き上げる方針が明確になっています。自国通貨が国際通貨ではない場合、金は「どの通貨にも依存しない資産」として機能します。

金を自国通貨で購入するという行為は、国際市場で交換可能な価値を確保することを意味します。これは脱ドルというよりも、「特定通貨への過度な依存を避ける」というリスク管理戦略と見ることができます。

さらに、中央銀行が自国産金を正規ルートで買い取る仕組みを整備することは、外貨準備の多様化と同時に、国内経済への波及効果も期待できます。金の精錬能力の強化や密輸防止など、経済構造の健全化にもつながります。

分散は一時的なブームではなく、長期的トレンドであるとの認識が広がっています。


金は「リスク資産」になったのか

足元の金価格は乱高下しています。これをもって「金は安全資産ではなくなった」との指摘もあります。

しかし、投機的な資金フローによる短期的変動と、構造的な需要増加は分けて考える必要があります。

金の供給量は、通貨の供給量に比べてきわめて緩やかにしか増えません。一方、多くの国で財政赤字が常態化し、国債発行残高は増え続けています。

通貨供給が増えれば、理論上その価値は希薄化します。こうした「通貨のディベースメント(価値希薄化)」に対するヘッジとして金が選好される構図は、長期的には変わっていません。

中央銀行の外貨準備に占める金の割合は、歴史的に見ればまだ高いとは言えない水準です。地政学リスク、財政リスク、供給制約といった構造要因を踏まえると、金価格の基調が大きく崩れるとは考えにくいという見方もあります。


分散化する国際通貨システム

今後の焦点は、ドルが直ちに基軸通貨の地位を失うかどうかではありません。

より現実的なのは、基軸通貨の「分散化」が進むシナリオです。

ユーロや中国人民元が完全にドルを代替するのは容易ではありませんが、ドルが担ってきた役割の一部を複数通貨が分担する体制へと移行する可能性はあります。

この文脈で、日本円の役割も改めて問われます。

円が国際通貨としての機能を高めるためには、
・円建て資本取引の拡大
・決済インフラの利便性向上
・アジア金融センター機能の強化
が不可欠です。

しかし根本は、円の信認そのものです。

円の長期的な価値低下を食い止めるには、潜在成長力を高める成長戦略と、持続可能な財政運営への信頼が欠かせません。中央銀行の政策運営と、政府の財政健全化への道筋が整合的であることが、通貨価値の基盤となります。


結論

金価格の高騰は、単なる投機現象ではありません。

それは、
・通貨価値の希薄化への警戒
・ドルへの過度な依存からの分散
・地政学リスクの高まり
という複合的な不安の映し鏡です。

基軸通貨体制が一夜にして崩れることはないでしょう。しかし、いったん入った信認の「ひび」は、簡単には元に戻りません。

通貨不信が根深く残る時代においては、各国が自国通貨の信認をどう維持するかが問われます。日本にとっても、円の価値を支える経済・財政の土台づくりは待ったなしの課題です。

金の輝きは、通貨制度の制度疲労を照らしています。
それをどう読み解き、どう備えるかが、これからの政策と資産運用の分岐点になるでしょう。


参考

日本経済新聞 2026年2月16日 朝刊
・複眼「金の『輝き』が映す影 『ドルは万能』、信認に傷」(大和総研理事長 中曽宏氏)
・「外貨準備、分散で備え」(マダガスカル中銀総裁 アイボ・アンドリアナリベロ氏)
・「財政懸念、資金流入促す」(ブラックロック運用幹部 エビー・ハンブロ氏)
・アンカー「根深い通貨不信、高値は続く」

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