景気回復が語られる一方で、小規模な中小企業の現場では赤字割合が4割前後に達しているという指摘があります。
この数字は一時的な景気循環の問題というより、構造的な環境変化を示している可能性があります。
人手不足、原材料高、後継者難、価格転嫁の限界――経営環境は複合的に厳しさを増しています。
このような時代において、税理士の役割はどこにあるのでしょうか。税務申告の専門家という立場を超え、どのような関与が求められるのかを整理します。
1.「赤字の理由」を構造的に整理する
赤字といっても、その原因は一様ではありません。
・売上減少型
・原価上昇型
・人件費増加型
・設備投資過多型
・事業モデルの陳腐化型
決算書を見れば赤字額はわかります。しかし、本当に重要なのは「なぜ赤字になったのか」という構造の整理です。
試算表を単なる報告資料で終わらせず、経営者と共に要因分解することが第一歩になります。
2.資金繰りを最優先で守る
赤字そのものよりも危険なのは、資金ショートです。
・借入返済スケジュール
・運転資金の水準
・在庫回転率
・売掛金回収サイト
これらを定期的に点検し、資金繰り表を作成・更新する体制を整えることが不可欠です。
金融機関との対話においても、根拠ある説明資料を準備できるかどうかで結果は変わります。
3.「節税」よりも「黒字化設計」
赤字企業にとって、節税は優先課題ではありません。
むしろ重要なのは、
・粗利率の改善
・不採算部門の整理
・価格改定の判断
・固定費構造の見直し
といった黒字化への道筋です。
税理士は数字の専門家として、利益構造の可視化を通じて経営判断を支える役割を果たす必要があります。
4.人手不足時代の経営助言
人手不足は中小企業の共通課題です。
・外注化の活用
・IT導入補助金等の活用
・業務プロセスの簡素化
・外国人材活用の検討
すべてを自社で抱え込むのではなく、選択と集中を促す助言が求められます。
税理士が外部専門家と連携する体制づくりも重要です。
5.「廃業」という選択肢を正面から議論する
赤字が続く企業に対しては、事業継続だけが正解とは限りません。
・事業承継の可否
・M&Aの可能性
・段階的縮小
・円満廃業
出口戦略を早期に検討することが、経営者の生活を守ることにつながる場合もあります。
数字を通じて冷静な判断材料を提示することも、税理士の重要な役割です。
6.税理士自身の体制整備
中小企業の経営課題は高度化・複雑化しています。
税務のみならず、
・財務分析
・事業再生
・IT活用
・人材戦略
など多面的な知識が求められます。
個人事務所のままで対応できる範囲には限界があります。地域での連携や法人化による専門性の強化も選択肢になります。
結論
中小企業の赤字4割時代は、単なる景気後退局面ではなく、構造転換期と捉えるべき状況です。
税理士は、申告書を作る専門家から、経営の伴走者へと役割を拡張することが求められています。
赤字を「結果」として受け止めるのではなく、その背景にある構造を分析し、資金を守り、将来の選択肢を提示する。
その積み重ねこそが、地域経済の持続可能性を支える基盤になるといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 朝刊 2026年2月16日
月曜経済観測「税理士法人から見た景気 中小・零細の経営難深刻」
(2026年2月16日付朝刊)

