企業法務の現場で、生成AIの活用が一気に広がっています。
論点整理や調査、契約実務の前工程など、従来は人手に頼っていた作業にAIが入り込み、業務の姿そのものが変わり始めています。
一方で、誤情報や著作権侵害、情報漏えいといったリスクへの対応も同時に求められています。
生成AIの活用とAIガバナンスの整備は、いまや企業法務にとって両輪のテーマです。
本稿では、最新の企業調査をもとに、法務部門における生成AI活用の実態と、今後の課題を整理します。
生成AI、法務部門で76%が活用
2025年10月に実施された企業法務税務・弁護士調査によれば、国内主要企業の76%が「一般的な生成AI」を法務業務に活用していると回答しました。
電子契約やリーガルリサーチに続き、生成AIは主要なリーガルテックの一角を占める存在となっています。
代表的なツールとしては、
- OpenAI のChatGPT
- Google のGemini
- Microsoft のCopilot
などが広く浸透しています。
特に多かった活用分野は次のとおりです。
- 論点整理・分析・レポート作成
- 翻訳
- 国内外の法令や行政資料の調査
契約書作成やレビュー、学説・文献調査への活用も進んでいます。
生成AIは「最終判断」ではなく、「前さばき」に強みを発揮します。
論点の洗い出し、条文のたたき台作成、比較整理など、人間が考える前段階を高速化する役割を担っています。
特化型リーガルテックも拡大
一般的な生成AIに加え、法務特化型のAIサービスも導入が進んでいます。
たとえば、伊藤忠商事は法務支援システムを導入し、自社の契約書データベースをAIで横断検索できる体制を整えました。若手社員からの要望が強かったとされています。
また、日本製鉄はメールや契約書を自動保存・共有する仕組みを導入し、組織として知見を蓄積する体制を整備しています。
法務部門は慢性的な人材不足に直面しています。
そのなかで、AIは単なる効率化ツールではなく、業務継続のインフラになりつつあります。
重要課題としての「生成AI対応」
調査では、法務部門の重要課題として
- 内部統制・ガバナンス
- 生成AI対応
が上位に挙がりました。
これは象徴的な結果です。
法務部門は「AIを使う側」であると同時に、「AI利用を統制する側」でもあります。
つまり、
- 法務部門自身のAI活用
- 全社的なAIガバナンス構築
を同時並行で進める必要があるのです。
AIガバナンスの具体像
AIガバナンスの整備とは、単に利用を禁止・制限することではありません。
具体的には、
- 社内利用ルールの整備
- 利用可否を審査する体制構築
- 個人情報保護への対応
- 著作権侵害リスクの管理
- サプライチェーン全体でのリスク評価
といった多面的な対応が求められます。
アシックスはIT、法務、知財担当者で構成する「AIガバナンスボード」を設置し、AI導入時の評価・承認体制を整えています。
AIは部門横断型のテーマです。
法務だけで完結する問題ではなく、経営レベルの統制課題へと発展しています。
企業法務は「判断の質」を問われる時代へ
生成AIは法務業務を代替するのでしょうか。
現時点では、完全な代替というよりも、
- 情報整理の高速化
- リスク論点の洗い出し
- 草案作成の効率化
といった補助的役割が中心です。
しかし、ここで重要なのは「AIが出した結論をどう評価するか」という能力です。
AIが広がるほど、
- どの情報を信頼するか
- どこにリスクが潜むか
- どこまでを許容するか
という判断の質が問われます。
これは、コーポレートガバナンスと同様に、企業の持続可能性を左右するテーマです。
結論
企業法務における生成AI活用は、すでに実験段階を超えています。
76%という数字は、生成AIが「選択肢」ではなく「前提」になりつつあることを示しています。
同時に、AIガバナンスの整備は不可避です。
- 活用か、規制か
ではなく、 - 活用と統制をどう両立するか
が問われています。
法務部門は、単なる法令対応部門から、AI時代のリスク設計部門へと役割を拡張しています。
生成AIは業務効率化ツールであると同時に、企業統治の質を映す鏡でもあります。
その設計次第で、企業の競争力にも、リスク耐性にも、大きな差が生まれる時代に入っています。
参考
日本経済新聞
2026年2月16日 朝刊
企業法務税務・弁護士調査「生成AI、法務で活用76%」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

