年金制度は「現役世代から高齢世代へ」という所得移転の仕組みです。
一方、相続は「高齢世代から次世代へ」という資産移転の仕組みです。
両者は別個の制度として設計されていますが、実は世代間循環という同じ構造の中にあります。
では、年金と相続を制度的に接続する設計は可能なのでしょうか。
本稿では、制度論としての可能性と課題を整理します。
現行制度の分断構造
現在の制度では、
・年金は社会保険方式
・相続税は資産移転課税
として別体系で設計されています。
年金は賦課方式を基本とし、毎年の保険料と公費で給付を支えます。
相続税は、被相続人の死亡時に一度だけ課税されます。
制度の時間軸も財源構造も異なっており、直接的な連動はありません。
接続を考える理由
それでも両者を接続して考える理由は明確です。
高齢世代には公的年金給付が支給される一方、多くの資産が蓄積されています。
現役世代は保険料を負担しつつ、将来の資産形成にも不安を抱えています。
世代間循環を滑らかにするためには、
・給付
・資産保有
・資産移転
を総合的に捉える必要があります。
理論的な接続モデル
理論的には、いくつかのモデルが考えられます。
1. 相続税収の社会保障財源化
相続税収を年金財源の一部に充てる設計です。
これは形式的には可能ですが、税収規模や安定性の問題があります。
2. 高齢期資産活用促進型モデル
高齢期に一定の資産を活用し、その結果として相続時の課税負担を調整する設計です。
例えば、リバースモーゲージや資産取り崩しを促進する政策と連動させることが考えられます。
3. 給付と資産状況の緩やかな連動
一定規模以上の資産を保有する場合の公費負担割合を調整する制度設計も理論上は可能です。
ただし、これは社会保障の普遍性との調整が必要です。
制度的課題
年金と相続を直接接続するには、いくつかの課題があります。
第一に、年金の社会保険的性格です。保険料と給付の対応関係が原則です。
第二に、資産評価の難しさです。資産額の把握は容易ではありません。
第三に、政治的合意です。資産状況に応じた給付調整は強い議論を呼びます。
制度設計には、理念と実務の両面で慎重な検討が必要です。
現実的な接続の方向
完全な制度統合は難しいとしても、緩やかな接続は可能です。
・高齢期の資産活用を促す税制措置
・生前贈与制度の活用促進
・年金受給開始時期の柔軟化
などは、資産と年金の循環を滑らかにします。
貸付用不動産評価見直しも、資産の実質価値を基礎とする方向性を示しています。
制度の整合性を高めることが、接続の第一歩です。
世代間循環という視点
重要なのは、「世代間循環」という視点です。
現役世代が支え、高齢世代が給付を受け、資産が次世代へ移転する。
この循環が円滑に機能することが、社会の持続可能性につながります。
年金と相続を対立的に捉えるのではなく、循環モデルとして再設計することが求められます。
結論
年金と相続を完全に一体化する制度設計は現実的ではありません。
しかし、世代間循環の視点から緩やかに接続することは可能です。
資産課税の適正化、高齢期資産活用の促進、社会保障財源の整合的設計。
これらを通じて、制度間の矛盾を縮小することができます。
相続税評価見直しは、その一部として位置付けられます。
年金と相続を分断された制度としてではなく、世代間バランスの中で統合的に考えることが、将来設計の鍵となります。
参考
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
