相続の場面で、子世代・相続人が最初に直面するのは、「被相続人がどの不動産を持っていたのか分からない」という問題です。
預貯金であれば金融機関に照会できますが、不動産については、明確な一覧を確認する仕組みがこれまで存在しませんでした。
令和8年2月2日から始まる所有不動産記録証明制度は、こうした相続人側の実務負担を大きく軽減する制度として位置づけられます。
不動産の全体像を早期に把握できる
相続人にとって最大のメリットは、被相続人が所有していた不動産を一覧で把握できる点です。
従来は、固定資産税の課税明細書や権利証、被相続人の記憶を手がかりに、個別に登記簿を取得する必要がありました。
しかし、課税対象外の土地や、固定資産税通知書に載らない不動産が見落とされるケースも少なくありません。
所有不動産記録証明制度を利用すれば、被相続人が登記名義人となっている不動産を横断的に確認できます。
これにより、相続手続のスタート地点で、不動産の全体像を把握しやすくなります。
相続登記義務化への対応がしやすくなる
相続登記の申請は、令和6年4月1日から義務化されています。
相続人は、原則として相続開始を知った日から3年以内に相続登記を行う必要があります。
しかし、不動産の存在自体を把握できていなければ、期限内に相続登記を行うことは困難です。
所有不動産記録証明制度は、相続登記義務を履行するための「前提情報」を提供する役割を果たします。
相続人にとっては、過料リスクを避けるための実務的な支援策といえるでしょう。
不動産の見落としによるトラブルを防げる
相続手続が一通り終わった後に、思わぬ不動産が見つかることがあります。
この場合、遺産分割協議をやり直す必要が生じたり、相続人間で新たな対立が生まれたりする可能性があります。
所有不動産記録証明制度を活用すれば、相続初期の段階で不動産の洗い出しを行いやすくなり、
「後から見つかる不動産」によるトラブルを防ぐ効果が期待されます。
相続人間の合意形成を円滑に進めるうえでも、大きな意味を持ちます。
相続放棄・限定承認の判断材料になる
相続人が相続放棄や限定承認を検討する際、不動産の有無は重要な判断材料になります。
被相続人に不動産があるかどうか分からないままでは、
「知らない不動産に将来負担が生じるのではないか」という不安から、判断が遅れることがあります。
所有不動産記録証明制度により、不動産の存在を一定程度把握できれば、
相続放棄や限定承認を選択するかどうかを、より合理的に検討しやすくなります。
手続全体のコストと時間を抑えられる
不動産の探索に時間がかかるほど、相続手続全体のコストは増加します。
専門家への相談回数が増えたり、追加の登記取得費用が発生したりすることもあります。
所有不動産記録証明制度は、相続人が初期段階で必要な情報を整理する助けとなり、
結果として、手続全体の時間と費用の抑制につながります。
登記情報の不備に気づくきっかけになる
証明書は、登記簿上の氏名・住所と検索条件が一致していない不動産は抽出されません。
この点は一見デメリットに見えますが、相続人にとっては重要な気づきの機会でもあります。
「証明書に載っていない不動産がある」という事実は、
被相続人の住所・氏名変更登記が未了であった可能性を示します。
相続人が早期にこの点を把握できれば、追加調査や対応を前提に手続きを進めることができます。
結論
所有不動産記録証明制度は、相続人にとって「相続の出発点」を明確にする制度です。
不動産の把握が遅れることで生じる手続の混乱やトラブルを、事前に防ぐ効果が期待されます。
相続登記義務化が進む中で、相続人に求められる実務対応は確実に増えています。
その負担を軽減する制度として、所有不動産記録証明制度は重要な役割を果たすといえるでしょう。
参考
- 税のしるべ「2月2日から所有不動産記録証明制度がスタート、被相続人が所有する全国の不動産の把握が可能に」(2026年1月26日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

