生成AIの普及により、経理業務が将来なくなるのではないか、という議論を目にすることが増えました。特に月次決算や増減分析のような定型業務は、AIに置き換えられやすい分野だと考えられがちです。
しかし、実務の現場を見渡すと、単純にAIに任せれば済む話ではないことも見えてきます。本稿では、月次増減分析を題材に、生成AIをどう使い、どこを人が担うべきかを整理します。
月次増減分析は何のために行うのか
月次増減分析の目的は、単に前月との差額を並べることではありません。
売上や原価、経費の変動が「なぜ起きたのか」を把握し、経営判断につなげることにあります。そのためには、数字の裏にある取引の背景や、顧客・現場の事情を理解する必要があります。
この点が、単なる集計作業と、経営に資する分析との大きな違いです。
生成AIが得意なこと
生成AIは、試算表や仕訳データを基に、
・前月比の増減額・増減率の整理
・一定のルールに基づくコメント案の作成
といった作業を、短時間でこなすことができます。
月次決算後の限られた時間の中で、たたき台を素早く作るという点では、非常に強力なツールです。実際、レポート作成にかかる時間を大幅に短縮できる場面も少なくありません。
生成AIが苦手なこと
一方で、生成AIには明確な弱点があります。
それは「事実の裏取り」と「文脈の理解」です。
例えば、売上増加を「新規顧客の増加」と表現しても、実際は既存顧客からの追加受注である場合があります。数字だけを見ればもっともらしい説明でも、実態とは異なることが起こり得ます。
このズレを見抜き、修正できるのは、業務内容を理解している人間だけです。
AIを前提にした実務の進め方
生成AIを活用する際の基本姿勢は、「完成品を求めない」ことです。
AIのアウトプットは、あくまでたたき台と位置づけます。そのうえで、
・元データとの整合性を確認する
・取引の背景や事情を補足する
・経営陣が誤解しない表現に修正する
といった工程を、人が担います。
この分業ができてはじめて、AIは実務の味方になります。
経理に求められる役割は変わる
生成AIの導入によって、経理の仕事が減るというより、仕事の質が変わります。
手を動かす作業はAIに任せ、人は「判断」「説明」「調整」に時間を使う。
これは若手だけでなく、年金世代やベテラン層にとっても重要な視点です。経験に裏打ちされた判断力や違和感は、AIには代替できません。
結論
月次増減分析をAIに任せてよいか、という問いへの答えは「任せきりにはできないが、使わない理由もない」です。
生成AIは、経理の仕事を奪う存在ではなく、判断に集中するための補助輪です。
数字の意味を理解し、責任をもって説明する役割は、これからも人に残り続けます。
参考
・企業実務 2025年11月号
中小企業 経理の生成AI導入の基本 vol.5
白井敬祐「月次増減分析表の作成 AIとの協働で省力化」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

