相続対策の基本として、遺言書の重要性は繰り返し語られてきました。しかし現実には、「手書きが大変」「書き直しが面倒」「形式が不安」といった理由で、遺言書を作らないまま亡くなるケースも少なくありません。
こうした課題に対し、法制審議会の部会が「デジタル遺言書」の導入に向けた要綱案を取りまとめました。遺言制度は、いま大きな転換点を迎えようとしています。
デジタル遺言とは何か
今回の要綱案で示されたデジタル遺言は、パソコン等で作成した遺言書をデジタルデータとして法務局に提出・保管する仕組みです。
最大の特徴は、これまで自筆遺言で必須とされていた「全文手書き」や「押印」といった形式的要件を、デジタル遺言では求めない点にあります。
一方で、本人の真意に基づく遺言であることを確保するため、法務局での保管申請時に、遺言内容の全文を本人が口述する手続きが想定されています。
形式を簡素化しつつ、意思確認を厳格に行う設計といえます。
現行制度との関係
重要なのは、デジタル遺言が導入されても、従来の自筆証書遺言や公正証書遺言が廃止されるわけではない点です。
あくまで「選択肢が増える」という位置づけであり、現行制度を維持しながら、新たな方式が追加されます。
また、今回の要綱案では、手書きの遺言についても「押印を要件から外す」ことが提案されています。
これは、高齢者や障害のある方にとっての負担軽減という観点からも、大きな意味を持ちます。
実務への影響
デジタル遺言の導入は、相続実務にも少なからず影響を与えます。
まず、遺言書の紛失リスクが大幅に低下します。法務局での一元管理により、「遺言が見つからない」「本当に存在するのか分からない」といったトラブルは減少するでしょう。
一方で、デジタル機器の操作や、法務局での手続きが必要になるため、「誰にでも簡単」と言い切れる制度ではありません。
高齢者が利用する場合には、家族や専門家の関与が前提になる場面も想定されます。
税務・FPの視点から見た注意点
遺言書の形式が変わっても、相続税や遺留分といった基本的なルールが変わるわけではありません。
デジタル遺言であっても、内容次第では争いの火種になる可能性は残ります。
特に、特定の相続人に偏った財産配分や、二次相続を考慮しない設計は、従来以上に慎重な検討が必要です。
形式が簡便になるほど、「内容の設計」がより重要になる点は押さえておくべきでしょう。
結論
デジタル遺言の導入は、「遺言を書くハードル」を確実に下げる制度改正です。
これは、相続対策を一部の人だけのものから、より多くの人にとって身近なものへと変える可能性を持っています。
ただし、遺言は書けば終わりではありません。
誰に、何を、どのように残すのか。その判断を支えるのは、制度理解と冷静な設計です。
デジタル化の流れの中で、相続の中身をどう整えるかが、これまで以上に問われる時代に入ったといえるでしょう。
参考
・日本経済新聞「デジタル遺言要綱案、手書き負担減や押印除外」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

