企業年金が国内債に戻る理由――金利ある世界で再評価される「確実な利回り」

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長らく国内債券は「持っても増えない資産」と見なされてきました。
日本銀行の大規模金融緩和のもと、国債利回りは歴史的な低水準に張り付き、企業年金の運用現場では国内債の比率を下げ、外国債券や株式へ資金を振り向ける動きが続いてきました。

しかし足元では、その流れに変化の兆しが見え始めています。
国内金利の上昇を背景に、企業年金が国内債券の組み入れを見直す動きが広がりつつあります。これは単なる運用戦略の変更にとどまらず、日本の債券市場や年金制度の構造を考えるうえでも重要な変化です。

企業年金運用の基本構造

企業年金、とりわけ確定給付企業年金(DB)は、将来の給付額をあらかじめ約束する制度です。
運用の目的は「高いリターン」ではなく、「約束した給付を確実に支払うこと」にあります。

そのため、DBでは予定利率という目標利回りが設定され、この水準を安定的に確保できるかどうかが運用の評価軸になります。
リスクを抑えつつ、長期にわたり確実な収益を積み上げるという点で、本来、国内債券は企業年金と極めて相性の良い資産でした。

なぜ国内債から離れていたのか

それでも過去10年ほど、企業年金では国内債離れが進みました。
最大の理由は、超低金利環境です。

新発国債の利回りが1%を大きく下回る状況では、国内債だけで予定利率を達成することが難しくなります。
その結果、外国債券や株式の比率を高め、全体として利回りを底上げする運用が一般化しました。

実際、日本経済新聞社と格付投資情報センター(R&I)の企業年金調査では、国内債の構成比率が10年間で大きく低下しています。
これは「国内債が不要になった」のではなく、「国内債では役割を果たせなかった」時代だったと言えます。

金利上昇がもたらした環境変化

状況を一変させたのが、国内金利の上昇です。
新発10年物国債利回りは2%を超える水準まで上昇し、企業年金の予定利率(平均2%強)とほぼ並ぶ水準に近づいてきました。

この水準であれば、国内債でも「一定の利回りを確実に確保する」という、企業年金本来の目的を果たすことが可能になります。
価格変動リスクはあるものの、償還まで保有すれば利回りがほぼ確定する点は、年金運用にとって大きな魅力です。

加えて、株式や外国資産が上昇した結果、リバランスの過程で国内債を買い増す動きも出やすくなっています。

運用商品も「短期・持ちきり」へ

こうした需要を受け、信託銀行や運用会社は国内債関連商品の拡充を進めています。
特徴的なのは、残存期間の短い債券償還まで保有する持ちきり運用です。

金利上昇局面では、長期債ほど価格変動の影響を受けやすくなります。
そのため、短中期債に絞ることで価格変動リスクを抑えつつ、利回りを確保する設計が好まれています。

これは「利回りを取りに行く運用」ではなく、「確実性を取り戻す運用」への回帰と捉えることができます。

企業年金は債券市場の「貴重な担い手」

もう一つ重要なのが、市場全体への影響です。
日銀の国債買い入れ縮小が進むなか、債券市場では慢性的な買い手不足が指摘されています。

国内DBの資金規模は約95兆円に及びます。
企業年金が国内債への配分をわずかに増やすだけでも、市場にとっては無視できない存在です。

金利を大きく押し下げるほどの力はなくとも、安定的な買い手としての役割は、今後ますます重みを増していくと考えられます。

個人・年金世代への示唆

この動きは、個人投資家や年金世代にとっても示唆的です。
「金利がある世界」では、国内債や円建て資産が再び意味を持ち始めます。

これまで国内債は、インフレや利回り不足の観点から敬遠されがちでしたが、
今後は資産全体の安定装置として再評価される局面に入っています。

企業年金が国内債に戻るという事実は、
「リスクを取り続けなければならない時代」から
「目的に応じてリスクを下げる時代」への転換を象徴しているとも言えるでしょう。

結論

企業年金の国内債回帰は、一時的な流行ではありません。
金利水準、制度設計、運用目的という三つの要素がそろった結果です。

確実な利回りを重視する年金マネーが再び国内債に向かうことは、日本の債券市場に安定をもたらすと同時に、個人の資産設計にも重要なヒントを与えます。
「増やす」だけでなく、「守りながら使う」資産運用の時代が、静かに始まっています。

参考

・日本経済新聞「企業年金、国内債回帰の兆し 金利上昇、確実な利回り魅力」(2026年1月16日朝刊)
・日本経済新聞社・格付投資情報センター「日経企業年金実態調査(2025年)」
・日本銀行「資金循環統計」
・JPモルガン・アセット・マネジメント コメント
・企業年金連合会 資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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