本シリーズでは、2026年度税制改正で拡充された企業の地方移転税制について、制度の概要から、中小企業の実務判断、空き家・中古不動産や相続との関係、そして個人の働き方・住まい戦略への影響まで整理してきました。
最終回となる本稿では、これらを踏まえ、地方移転税制が東京一極集中という構造的課題にどこまで影響を与え得るのかを総括します。
税制拡充の意義はどこにあるのか
今回の改正の最大のポイントは、中古物件の購入・改修が対象に加えられた点です。
これにより、地方移転は「資金力のある大企業だけの選択肢」ではなくなり、中小企業にとっても現実的な検討テーマとなりました。
税額控除率や特別償却率の引き上げ自体も重要ですが、それ以上に「制度が想定する企業像が広がった」ことが、この改正の本質といえます。
東京一極集中は税制だけでは動かない
一方で、東京一極集中の要因は、税制だけで説明できるものではありません。
人材、取引先、情報、教育、医療、文化といった要素が重なり合い、東京への集中を生んでいます。
税制優遇は、移転を検討する際の「背中を押す要素」にはなり得ますが、それ単独で企業や人の流れを大きく変える力は限定的です。
それでも意味がある理由
では、この税制拡充は限定的な効果しか持たないのでしょうか。
そうとは言い切れません。
地方移転税制は、「大きく一気に動かす制度」ではなく、「小さな動きを積み重ねる制度」と考えるべきです。
一社一社の移転は小さくても、それが積み重なれば、地域の雇用、不動産、人口動態に確実に影響を及ぼします。
企業・地域・個人が交差する制度
本シリーズで見てきたように、地方移転税制は、企業政策であると同時に、
・地方の空き家・中古不動産問題
・相続後の不動産の出口問題
・個人の働き方や住まい方
といった複数の課題と交差しています。
制度の評価は、「何社移転したか」だけでなく、「どのような関係性が生まれたか」という視点でも行う必要があります。
中小企業にとっての現実的な位置づけ
中小企業にとって、この税制は「必ず使うべき制度」ではありません。
しかし、「知らずに判断するには惜しい制度」であることは確かです。
地方移転を検討する過程で、
・中古物件の活用
・雇用の在り方
・経営管理体制
を見直すきっかけになるだけでも、一定の価値があります。
個人の選択が成否を左右する
最終的に地方移転を成立させるのは、企業でも制度でもなく「人」です。
どれほど制度が整っても、働く人が納得できる形でなければ、移転は続きません。
逆にいえば、柔軟な働き方や住まい方を選びたい個人の存在が、企業の地方移転を後押しする側面もあります。
今後を見る視点
今後、この税制を評価する際には、次のような視点が重要になります。
・中古物件を活用した移転がどこまで増えるか
・東京近郊以外の地方への分散が進むか
・自治体や地域金融機関がどこまで関与できるか
数字だけでなく、質的な変化に注目する必要があります。
結論
地方移転税制は、東京一極集中を一気に解消する魔法の制度ではありません。
しかし、企業・地域・個人の関係を少しずつ組み替えていく「調整装置」としての役割は期待できます。
税制はきっかけにすぎません。
それをどう使い、どう活かすかが、これから問われていくことになります。
参考
・日本経済新聞「企業の地方移転に税優遇 中古物件購入も対象に」
・2026年度 税制改正大綱(地方創生・法人税関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

