これまでの回では、地方移転税制の概要、中小企業の実務判断、空き家・中古不動産や相続との接点を見てきました。
第4回では視点を「個人」に移し、企業の地方移転が、働き方や住まいの選択にどのような影響を与えるのかを整理します。
地方移転税制は企業向けの制度ですが、その波及効果は個人のライフプランにも及びます。
勤務地と居住地が切り離される時代
テレワークの普及により、「会社の所在地=働く場所=住む場所」という関係は崩れつつあります。
企業が地方へ本社機能を移転しても、すべての従業員が同時に移住するとは限りません。
一部は現地勤務、一部はリモート、管理部門のみ移転といった柔軟な形態も増えています。
この動きは、個人にとって働く場所と住む場所を再設計する契機となります。
地方勤務がもたらす生活コストの変化
地方での勤務や居住は、住宅費をはじめとする生活コストを大きく変えます。
家賃や住宅取得費が抑えられる一方、車の保有や移動コストが増えるケースもあります。
重要なのは、「地方=必ず安い」と単純に考えないことです。
収入、通勤頻度、家族構成を含めて総合的に判断する必要があります。
住まいの選択肢は広がるが、判断は慎重に
企業移転が進めば、地方での社宅提供や住宅補助といった制度が復活・拡充する可能性もあります。
一方で、地方で住宅を取得する場合、将来の転勤や退職後の住み替えを想定しないと、不動産が足かせになることもあります。
「定住」を前提にするのか、「期間限定の居住」と考えるのかによって、賃貸と持ち家の選択は大きく変わります。
共働き世帯・家族への影響
個人の判断は、世帯単位で考える必要があります。
配偶者の仕事、子どもの教育、親の介護など、地方移転が難しい事情を抱える家庭も多いのが現実です。
企業側が地方移転を進めるほど、個人側には柔軟な働き方や選択肢が求められます。
制度があっても、個人の事情と合わなければ活用は進みません。
地方移転と老後の住まい戦略
地方移転の議論は、現役世代だけの話ではありません。
企業勤務を通じて地方との関係を持つことが、将来の住まい選択に影響する可能性もあります。
定年後に地方へ移住する、二拠点生活を選ぶといった選択肢は、現役時代の経験や人間関係によって現実味を帯びます。
地方移転税制は、結果として「老後の住まいの予行演習」のような役割を果たす面もあります。
税制・社会保険の視点からの注意点
勤務地や居住地が変わることで、住民税の納付先、社会保険の手続き、通勤手当の課税関係など、実務的な影響も生じます。
特にリモートワークと現地勤務が混在する場合、会社と個人の認識がずれるとトラブルの原因になります。
働き方が多様化するほど、制度理解と事前整理の重要性は高まります。
結論
企業の地方移転は、単なる法人税制の話ではありません。
それは、個人の働き方、住まい方、そして人生設計に影響を及ぼす構造的な変化です。
制度が整っても、最終的に動くのは人です。
企業の判断と個人の選択がかみ合ったとき、はじめて地方移転は現実のものとなります。
参考
・日本経済新聞「企業の地方移転に税優遇 中古物件購入も対象に」
・2026年度 税制改正大綱(地方創生・法人税関係)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
